ブラインド・サイド しあわせの隠れ場所 ハヤカワ文庫NF

マイケル・ルイス(著者), 藤澤將雄(訳者), 河口正史

• 販売会社／発売会社: 早川書房
• 発売年月日: 2015/01/01
• JAN: 9784150504229

商品レビュー

2018/06/17

2009年にサンドラ・ブロックが主演してヒットした映画の原作。著者は「マネーボール」「ライアーズ・ポーカー」のマイケル・ルイス。

メンフィスのスラムでドラッグ中毒の母親に育児放棄されて育ったマイケル・オアーが、裕福な白人家庭に引き取られ、花形アメフト選手として育っていく話。

オアーは巨大な体躯にもかかわらず俊敏な運動神経を有するがゆえに、フットボール経験は浅かったにもかかわらず、全米の有力大学からのスカウト合戦が白熱する。物語は彼がミシシッピ大学に入学するところで終わるが、現実世界の彼はその後NFLに進み2012年にはスーパーボールに出場する活躍をするも2013年には解雇。移籍したチームにおいてもあまり出場機会には恵まれず、2017年には脳震盪が原因となり引退となっている。

引退後のオアーがUber運転手に暴行して逮捕されたことがニュースとなっており、この本に登場する「体はデカいが心は優しい少年」とのイメージが異なる。「コンカッション」で詳述されているとおり、度重なる脳への衝撃で人格までもが変わってしまうという状況にオアーがなっていないと良いのだが。

本書の半分は、オアーが注目を浴びるにいたった「レフトタックル」というポジションについての物語。副題「Evolution of A Game」とは、ここ20年ぐらいでアメフトの戦術がいかに変化してきたか、その結果としてどのようなポジションの選手が注目されるようになったか、ということを書いている。現在のアメフトではQBを守ってパスの成功率を高めることが重視されている。そのため、オフェンスラインにおいて背後のQBを守る仕事を行うレフトタックルは、時には年俸がQBの数倍に達している。著者のマイケル・ルイスは、多くの監督・選手にインタビューを行った結果をもとに本書を書いている。アメフトの戦術上のテクニカルな部分は、かつてNFLヨーロッパに参戦していた河口正史氏が翻訳監修している。

アメフトがいかに大きなビジネスとなっているかについての記述が興味深い。この物語の舞台のメンフィスの高校チームでは監督配下に有給のコーチ6名がついていたという。