サイコセラピー練習帳 グレーテルの宝捜し

丸田俊彦(著者)

• 販売会社／発売会社: 岩崎学術出版社
• 発売年月日: 1986/07/18
• JAN: 9784753386048

商品レビュー

2012/01/01

読み進めながら、サイコセラピー＝精神分析を学べる、というある意味で画期的な代物ではあるが、意外と薄いところは薄いような気もする。読書ばかりで実技経験がこれといってもない自分ではあるが、それにしても、目だけは肥えたようで、両者の間で交わされるやりとりの質自体は低く、著者があとがきで「三年目程度の駆け出し」と述べているあたりからも、なるほどなと思わされる。とはいえ、バーガー先生は逆転移を無意識的に起こしたりするといった甘さがあるものの、基本的には、グレーテルを受け容れつつ、グレーテルが述べた言葉を繰り返してやることで、彼女の自己理解を促進させようと黒子に徹しているし、時には解釈・直面化・明確化といった技法を使いながらも、面談に進展を起こしたりもしている。精神分析をしていれば、「たられば」は無限に起こることは想像に難くないが、「たられば」を想定していれば恐らく精神分析は全てが失敗になりかねないのだろう。結局のところは、一見失敗に見えるようなことですらも、自分とクライエントというこの組み合わせによっては必ず生じる、「必要不可欠の過程」だったと肯定するほかはないのではなかろうか？つまり、どの場面で直面化や明確化をするのかも、解釈をするのかも、経験とそれに裏打ちされた直観によらざるをえないのではなかろうか？ともかく本著において武器とされていた技法は、以上の三つだろう。それに、エディプスコンプレックスや、投影、否認、抑圧、同一化、抵抗、転移、逆転移あたりの概念が分析や治療に用いられている。更に、第三章では対象関係論から、「良い対象」と「悪い対象」が統合されずにあることから生じる「半境界例的なグレーテルの症状」へとメスを入れてもいる。つまり、グレーテルは彼女が良い対象と悪い対象を統合する前に、母に死なれたせいで、両者をうまく統合しきれずに成長してしまった。継母との関係において再度それを統合しようとしたものの、彼女は悪い対象を統合することが恐ろしくてならず、結果として自らが継母にしかられそうで怖れているという気持ちを継母に投影することで自らが継母に憎まれ虐げられているかのように感じてしまう。よって、実際は虐待など受けていないのに、継母を悪者に仕立て上げることとなってしまう。一般に流布しているヘンゼルとグレーテルにおける継母はグレーテルに投影された悪い対象で塗り固められた継母像であり、それは現実における実像からは酷く乖離していた、という形で（これはバーガー先生の分析を超えた著者による分析であるのだが）、グリム童話自体がグレーテルによってゆがめられたものへと変質させられてしまう。そして、著者は白雪姫やシンデレラはよりこの症状が酷いと分析する。つまり、白雪姫やシンデレラにおいては、「良い対象」と「悪い対象」とに明確に分離が見られるが、これは彼女たちの中で、二つの対象が統合されずにゆがめられてしまった結果、「自ら＝良い対象」、「自らの味方となってくれないもの＝徹底的に悪い対象」といった具合で分裂させてしまっているからだと言うのであるけれど、そうするとグリム兄弟の彼らの心的内界が未発達だったとも言えてくるわけで、そうすれば全てが歪み始めるような気がするのは気のせいだろうか？

2004/11/08

大学院に入る前に担当教員から読めと言われて読んだ本のうちのひとつ。この本を読んで何が驚いたって自分がヘンゼルとグレーテルをきちんと記憶していなかったこと。心理の人は嗜みとしてグリムくらい読んでおきましょうという話。