震災復興における被災地のガバナンス 被災自治体の復興課題と取り組み

飯塚智規(著者)

• 販売会社／発売会社: 芦書房
• 発売年月日: 2013/07/01
• JAN: 9784755612596

商品レビュー

2014/01/10

近年の国内大震災における復興体制のあるべき姿を地方行政（ローカル・ガバナンス）の在り方を通じて提示した本。

平時では予想もつかない事態に陥る災害時に、地方行政はどのように取り組んでいくべきなのか。
これまで起こった数々の大地震の時の教訓を活かして、住民の危機管理意識は高まり、自治体の震災復興計画の策定も進んでいますが、それでもなお、改善すべき面は多く残されています。

災害は場所に関係なく起こりうるもの。それがどんな大都市であろうと、小さな村であろうと、起こってしまった以上はどこであれ住民の安全とライフラインの復旧に早急に取り組まなくてはなりません。
そうなった場合にやはり中心となって動くべきは、自治体になりますが、被災地では自治体職員も被災するため、どこまで対応できるかわからないもの。

どうしても専門家や住民、NPO団体、そして地方議会（議員）と連携協力していく必要があります。
通常では、互いの立場が違うことから、なかなか話が折り合わない面も多いものですが、災害時にもそのずれを抱えたままだと、対応に遅れが生じ、被害範囲が広がることも考えうる状況。

阪神・淡路大震災での教訓を経て、次の大震災では二の鉄を踏まないようにと、住民レベルに至るまで危機意識を高めていましたが、そののちに起こった東日本大震災は、想像し得ないほどに広範囲だったため、救助に予想外の時間がかかりました。

三陸海岸は定期的に大津波が来るという予想がすでについている地域であり、巨大堤防を築くなど、対策は完全に見えましたが、それをはるかに上回る規模の大津波が来るとは予想しきれていなかったのが、被害をさらに広めることとなりました。

自治体は、被災した中での災害対応に追われてとても人手が足りず、全国の自治体から職員が派遣されても、震災の混乱の中でどの自治体からどれだけの職員が派遣され、どのような業務を行っていたのか、完全に把握しきれていなかったとのこと。
そもそも書面での応援申請がほとんど使えず、先方からのお仕掛け支援がほとんどだったというアナログな状況だったと知りました。

職員レベルでの一元的な管理ができていないため、災害救助ボランティアの請負に関してはさらに混迷を極めたとのこと。
ボランティア希望者の多くは初心者であり、何をすればよいのかわからないままやってきたため、素人のボランティアと被災自治体とで動きがとれず、人手が必要なのに互いに指示待ち状態となり、実際の救助活動に結びつかないままボランティア募集を締め切った所も多いとか。

全体像が把握できていないと、全てにおいて動きが滞り、それだけ復興が遅れるわけです。
町や村レベルの被災自治体と、県との災害時の協力大勢も見なおすべきで、職員派遣手続きやボランティア登録などは県レベルが請け負わないと、立ち行かなくなるのは自明です。
被災自治体とNPOやボランティアの間に立つ仲介役は必要であり、そうした支援体制は県が整備を携わるのが一番順当だと思われます。

神戸市では阪神・淡路大震災の経験を活かすため「震災バンク」という職員データベースを構築しているとのこと。
災害対応業務のノウハウを共有できる、貴重な人材DBで、東北の被災地でも追って立ち上げるのが良さそうです。

混沌とした被災地復興がデータと共に語られるため、状況がわかりやすいものとなっています。

被災地のガバナンスが機能することで住民の意識と行政対応が沿うようになると、復興災害の被害の軽減、ゆくゆくは地域の防災・減災にもつながります。それが復興プロセスの最適化だと著者は論じます。
政治学・行政学の視点から災害復興を提示した一冊となっています。