竹久夢二の世界 描いて、旅して、恋をして 別冊太陽 日本のこころ221

別冊太陽編集部(編者)

• 販売会社／発売会社: 平凡社
• 発売年月日: 2014/08/22
• JAN: 9784582922219

商品レビュー

2023/07/30

郷土の大画家ではあるが、実は好きではない。夢二式と言われる絵柄も男の子としては拒否感を覚えたというのもあるし、ワンパターンという蔑視もあった。女性遍歴を重ねたことは薄ら聞いていて羨ま否汚らしいという感覚もあった。

そんな竹久夢二を見直したことは過去2回ほど。一応岡山後楽園そばの夢二郷土美術館に行けば、その画業の全貌が展示されている。あ、美人画だけじゃなくて、本の装丁なんかも色々やってんだ、と思ったこと。5年前に「東京災難画信」に出会ったこと。今回県立図書館が「郷土ゆかりの作家」展示で竹久夢二をたまたま取り上げていて、「岬（初めて刊行された「画信」付きの画文集）」と本書を手に取った次第である。

竹久夢二。明治17年（1884）、岡山県邑久郡本庄村に、造り酒屋、酒の取次販売をする家の実質長男として生まれる。絵描きの好きな少年だった。16歳、神戸中学校に入学するも、家の事情で中退し九州八幡へ転居。翌年姉や母の援助で上京、22歳、早稲田実業学校本科を卒業して専攻科へ。この頃イラストが雑誌に掲載され始める。岡栄次郎、荒畑寒村らと自炊生活。社会主義思想に近づく（大逆事件の後に離れる）。その後いろいろあって、昭和9年、５１歳で永眠。

明治末期のスケッチ「たった十五銭」というのがある。夢二式の一欠片もない、リアルな質入する主婦像である。赤ちゃんをおぶって、髪の毛がほつれて、手の荒れも表現している。夢二は世の若者の常として、社会主義に興味を示したけど、マズイと思うと早々に撤退する。しかし、終生弱い者の立場から絵を描くことは貫いたと思う。それがたまたま発現したのが「東京災難画信」だったのだろう。

夢二の「デザイン」はホンモノである。豊富に残したのは、「楽譜」の表紙。大正期は流行歌が登場、蓄音機や洋楽器が普及した。楽譜は言わば今のCDジャケットのようなものか。装幀・挿画も多く残した。そこで注目されるのは、絵だけでなく、正に装幀としての構成とレタリング。幾つも幾つもオリジナルな字体を発明している。実際、女の顔ばかり描いていない。見返しにも見事な模様を発明している。千代紙・絵封筒・生活小物のデザインも担当。そして夢二式として一世を風靡した「新少女」「小学少女」「子供之友」などの表紙。けれども同時期に描いた「中央文学」「キネマ」「文芸講談」「文章世界」「蝋人形」などの雑誌表紙を見ると、そうと知らなければ、これを竹久夢二の作とはなかなか判らない。

さすが、別冊太陽。これでもか、というように竹久夢二の「デザイン」が出ていた。反対に夢二式女性絵は少なめだった。大正モダンが、昭和になって急速に萎んだことが竹久夢二の悲劇だったのかもしれない。昭和初めにアメリカに渡って一旗上げようとするが、３年で挫折して帰国。ほとんど同年輩の藤田嗣治がフランスで大成し、昭和になれば帰国して戦争作家として生き抜いたのとは、真逆の人生ではある。竹久夢二は、その後すぐに病を得て亡くなっている。
──────戦争がいけなかったのだ、全て。と、あの世で夢二は呟いているだろうか。