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リヒテルは語る ちくま学芸文庫
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 筑摩書房 |
発売年月日 | 2014/03/12 |
JAN | 9784480096142 |
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リヒテルは語る
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リヒテルは語る
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スヴャトスラフ・リヒテルは、かなり好きな方に入るピアニストだ。 この本は彼が書いた物ではなく、インタビュー集でもない。リヒテルと親交のあったボリソフ(演出家、映画監督)が、リヒテルの折々の言葉を記録し、まとめたものである。 読んでいるとヤノーホの『カフカとの対話』の雰囲気に似てい...
スヴャトスラフ・リヒテルは、かなり好きな方に入るピアニストだ。 この本は彼が書いた物ではなく、インタビュー集でもない。リヒテルと親交のあったボリソフ(演出家、映画監督)が、リヒテルの折々の言葉を記録し、まとめたものである。 読んでいるとヤノーホの『カフカとの対話』の雰囲気に似ている。あの本のカフカは情熱的で神秘的・禁欲的な思索家として刻まれていたが、この本でのリヒテルもそれに近い。修業者ふうではないものの。 いちばん驚くのは、リストのソナタとか、個々のレパートリーについてリヒテルが極めて文学的な「物語づけ」を行っていたことだ。つまりリヒテルは、楽譜から勝手に自らの「コンテクスト」に沿って音を構築し直していたようなのだ。このような「音楽の文学化」については、音の多義性を損なってしまうと思うので感心しないが、これはあくまでもリヒテルの「流儀」ということだろう。そうした文学的解釈を彼は聴衆に押しつけているわけではないし、生み出された音楽が素晴らしければ、練習の過程については何も言うことはない。 第14章によるとリヒテルは「客観的に言えば、いちばん偉大な作曲家はモーツァルトとストラヴィンスキーだ。彼らの技巧は完璧だ。」と断言している。「道化の王様」であるストラヴィンスキーについての彼の評価にはとても共感できる。 けれども彼は付け加える。「だが人間は主観には勝てない。私が評価するのはワーグナー、ショパン、ドビュッシーだ。」 プロコフィエフ、スクリャービンと同様にシマノフスキを評価し、取り上げていたあたり、私の好みに近い。しかしなぜかシマノフスキのソナタでリヒテルが選んだのは「3番」ではなくて「2番」なのだ。 それと、一番好きな作品としてシューベルトの「さすらい人幻想曲」を挙げ、「あの音楽を神のようにあがめている」と言うに至っては、私としてはもうついて行けない。 この本では音楽はもちろんのこと、文学や映画に関するリヒテルの好みも窺えて面白い。彼もパゾリーニの映画に注目していたようだ。「生の三部作」を絶賛している。それと、コクトーの「オルフェ」も。 リヒテルは大量のレパートリーをひっさげてライヴしまくっていたようで、私が知っているのはそのうちのごくわずかにしか過ぎない。彼がシマノフスキやストラヴィンスキーを弾いていたことも、この本で知った。 エネルギッシュなピアニストはまじめな思索型だったらしく、どうやら鬱病持ちで、いったん鬱期に入ると数ヶ月も寝たきりで壁を見つめていたというから、なかなか重度だ。 ともかくこれは音楽好きな人にとっては実に面白い読み物で、リヒテルの考え方に首肯できるかどうかは別にして、その真摯で、自己の主観性を強力に貫徹した孤独な芸術家というにふさわしい生きかたは、本当に示唆的だと思う。みんなこれは読んでおいた方がいいと思う。 ヤノーホ『カフカとの対話』に匹敵する本だ。
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