財務諸表監査における不正対応

宇澤亜弓【著】

• 販売会社／発売会社: 清文社
• 発売年月日: 2013/11/25
• JAN: 9784433546236

商品レビュー

2015/12/15

不正会計対応の視点から記載された財務諸表監査の解説書。不正会計調査の世界では指折りの専門家である宇澤先生の書籍だけに鋭い指摘が多い。不正が発覚すると会計士はよく期待ギャップを持ち出して逃げに入る傾向があるが、宇澤先生曰く、「監査の限界」という極めて純理論的な状況を想定して期待ギャップを論じることの実務における意味はあまりないとのことだ。監査の限界を想定した監査は、監査人の言い訳を常に準備して監査を行うようなものであって、自らの使命及び職責を自覚した監査人による監査とは程遠いものであるという。監査人の監査人としての矜持が感じられないとまでいう。過去の不正会計は、監査人が正当な注意を払っていなかったため、これを把握できなかった場合が多く、その意味では監査の失敗であり、期待ギャップの話ではないと言い切るくだりでは自省するばかりだった。
不正会計対応という観点では、まず第一に現物確認の重要性を説く。契約書、通帳、領収書などの証憑書類については必ず原本を確認する。コピーでは改竄されている可能性があるからだ。また棚卸資産については、外部保管先の在庫について保管証明書を直接入手する監査手続だけでなく、やはり直接外部保管先に往査して現物確認を行うことの必要性を不正対応の観点から十分に検討する。循環取引による不正については、循環先の協力会社から自社に戻ってきたときに架空の仕掛品などとなって経理されている場合が多いので、現物確認が難しい仕掛品であっても不正対応の観点からは、立会、視察などを必ず監査手続として実施する。
また職業倫理の重要性についても再確認した。被監査会社からの「今回だけでも見逃してほしい」との依頼は職業倫理に照らせば認められないはずだ。ただ情に絆され、これを認めてしまったがために後日不正として発覚し、事後処理に追われるような事態になれば会計士人生は終わる。当たり前の話だが、いかなる監査の局面においても公正不偏な態度の保持が忘れがちだが重要なのだ。