はじめての…こと 廣済堂文庫

常盤準(著者)

• 販売会社／発売会社: 廣済堂出版
• 発売年月日: 2013/08/19
• JAN: 9784331615508

商品レビュー

2013/08/31

主人公の思春期性愛小説が意味するもの

[ＤＳＫ]

久方振り帰ってきた作者の『休診日－人妻誘惑クリニック』（マドンナメイト文庫）に続く作品だが、こちらは随分と異なる雰囲気を醸している。何しろヒロインには人妻どころか熟女も登場しない。１０代から２０代までのヒロイン達と様々な性愛体験をしていく主人公の話と言えるであろう。その代わり、新しく赴任した副担任の女教師に始まり、先輩やナースといったバラエティに富んだ布陣ではある。

基本的にはサッカー部に所属する主人公の学園生活を軸にしているため、通学途中の電車内や、怪我をした主人公が担ぎこまれた病院、あるいは視聴覚室に図書室、さらにはドライブ先だったり逆に部屋の中だったりと、そのシチュエーションは多岐に渡る。また、奥ゆかしい女教師とは次第に羞恥の度を増していくのに対し、先輩（同級生の姉）からは意地悪な責めを受けてしまうなど、ヒロインの性格に合わせた情交描写も変化に富んでいる。このそれぞれが何とも言えない艶っぽさに彩られており、描写の淫猥さはさすがの常盤準と申し上げるのみだが、中には「ちょっとやり過ぎじゃない？」と思えるプレイも見られる。

また、こうした官能面の上質さで星を稼いではいるのだが、物語としては少々纏まりに欠けるようにも見受けられる。実は肌を合わせるヒロイン達とは別（と言っても相応に絡み、その動向を大いに気にしたりするのが可愛らしくもあるのだが）の純な愛情物語も併走しているところが思いのほかクローズアップされていないというか、その存在感の割に最後まで活躍の場があまり無いような印象となってしまっている。と言うのも、見方によっては最後に油揚げを攫われるような幕引きにも写るからである。そして、最後に至って紙面が尽きたのか、結び方には性急さもあったように思えてならない。あの名作漫画『タッチ』のパロディ（オマージュ？）はご愛嬌としても、どうにも無理やり決め台詞を言わせたかったがための結末にも感じる。

個人的には最後に至って表紙カバーイラストの意味が分かったものの、途中までは「何でこの表紙なんだろ？」といった違和感が残り、爽やかな結末にもまたマッチしないものを感じてしまった。これだけが残念である。