やる気とか元気がでるえんぴつポスター

金益見【著】

• 販売会社／発売会社: 文藝春秋
• 発売年月日: 2013/04/10
• JAN: 9784163757407

商品レビュー

2024/03/24

夜間中学生が一年に一度鉛筆で書く「えんぴつポスター」を手描き文字そのまま掲載したもので、見ているだけで学ぶことの楽しさ嬉しさや、できない事のくやしさなどのみずみずしい感性を存分に思い出させてくれる良書。

読み書きできるようになっただけで見える世界まで変わったと喜んでいる人の言葉には、普段空気のように享受している識字能力の有り難みに改めて気づかせていただいた。学を付けてもらえる事の幸運とありがたさ、未だ世界中にそうではない人々がたくさんいて、自分の属している社会にも存在しているという現実は、めぐまれた環境におかれていると情報としては持っていても、本当の意味では感じることができない。ということはその人にとっては存在していないも同然となり、共感も生まれず、識字能力がないだけの人物から得られるかもしれない価値ある経験もまた得られなくなってしまう。これは双方にとって不幸なことだ。

その点、本書は手描き文字という生身の人間の存在感がそのまま伝わるツールで、書かれている言葉以上のものを豊かに、あるいは生々しく読者に与えてくれる。手慣れぬ文字や簡素な言葉の向こうに長く生きてきた人物の経験が光って見える。体裁こそ子供から大人まで読める気軽なものだが、福祉教育にも普遍的な他者理解にも貢献する稀有な本ではないかと思う。

やってやっても忘れてしまうだとか、読むのは容易くても書くのは難しいなど、大人になってから新たに言語を勉強する際に感じる困難さは日本語も英語も変わらないなと思ったりもした。

2022/11/28

手書きの文字が好きです。
上手とか下手とかはどうでもよくて、書いた人の性格やその時の感情が垣間見られる気がするから。
えんぴつポスターにはそんな個性が溢れる文字がおどり、文章もノンテーマなだけあって多種多様。
クスッと笑えるのもあれば、苦労がしのばれるものもあり。
学ぶことへのエネルギーに満ち溢れているものが多くて、こちらもつられて元気な気持ちがわいてきます。
一番好き、印象に残ったのは
「心が動けばたおれてでも勇気が失われないです」
という言葉。
「そうか、そうだよね」と特になにがあったわけではないけど励まされたような心持ちになりました。

巻末の対談のなかでリリー・フランキーさんが「気持ちのある人の字は、字がデザイン化されてるから、書いてることの意味と書いてる字体がすごく合ってる」と語られていて、自分が手書き文字が好きな理由はそこかも、とすごく合点がいきました。

2018/11/21

大阪の東生野夜間中学校の前に月替わりで「えんぴつポスター」が貼りだされる。標語のような短いもの。
夜間中学校の学生は85%以上が在日コリアン、平均年齢６７歳。
読み書きができる嬉しさ、勉強ができる嬉しさにあふれている。
中学生にこれを見せると、猛烈に勉強を開始するらしい。
（著作）ラブホテル進化論で橋本峰雄賞。