クララ・シューマン ヨハネス・ブラームス 友情の書簡

ベルトルトリッツマン【編】, 原田光子【編訳】

• 販売会社／発売会社: みすず書房
• 発売年月日: 2013/01/26
• JAN: 9784622077275

商品レビュー

2021/10/27

p40 「胸の想いを紙に写すことが、僕の場合はきわめて稀なことを、もうなんとたびたび申し上げたことでしょう。作曲の場合も同じで()僕は求めている音にゆきあたらず、長い間考え感じています。そしてどんなに心の中で温められても、どうしたわけか心から溢れないのです」

p56 「あなたの中に僕は人が書物から得ることができず魂の中から学びうる生命力(生命力を創造すること)をますます学びます。あなたは僕の近くにつねに天使としていてくださらねばなりません」

2015/11/29

とても端正な日本語で訳された書簡集でした。ロベルト・シューマンとクララ・ヴィークの書簡集も読み応えのあるものでしたが、これもまた。しかしそれにしても、この書簡集に登場する３人はなんとお互いが深く愛し合っていることでしょう。ヨハネス・ブラームスのクララに捧げた純愛は有名ですが、クララもまた、ロベルトとヨハネス二人の男性との邂逅あってこその人生を歩いたのだと思います。彼女自身は自立した生活力ある女性だったと思いますが、ブラームスとの形にならなかった愛なくば、全く違った人生を歩いたでしょう。これを読むまで、クララとブラームスの恋ってもっとスキャンダラスな印象を私は持っていたのですが、禁欲的なのとも違い、浮ついてもいない、彼らだけに通じ合う確固たる愛を育んだ人々なのだと認識を新たにしました。叶わない、でも通じあい求め合った、その果ての温かい交流をなんと見ましょうか。答えはブラームスの若い時代の作品に見る嫋々たるメロディの中に切なくも残っている。それが正解のような気がします。僕にはこの愛だけでいいのだ、と成熟した男性となったブラームスは、後年のがっしりと人懐かしい曲の中で、ぽつんと言い残しているとも…。