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幻の楽器ヴィオラ・アルタ物語 集英社新書
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商品詳細
内容紹介 | |
---|---|
販売会社/発売会社 | 集英社 |
発売年月日 | 2013/01/17 |
JAN | 9784087206746 |
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幻の楽器ヴィオラ・アルタ物語
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商品レビュー
4.2
12件のお客様レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
感動的。クラシックやドイツ(ドイツ・ロマン主義?)に対する認識が深まるな。 演奏を聞く:http://www.voiceblog.jp/violaromance/
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音楽史の表舞台から消えた幻の楽器ヴィオラ・アルタ。 この楽器て偶然に出会った著者が、その秘密を追いかける。ノンフィクションでありながら、推理小説の要素もあり、とても楽しかった。 本の中で取り上げられる曲も聴きたくなる。
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ヴィオラという楽器は形にも大きさにも決まりがない。共鳴体としての楽器の容積は音域と関連があり、ヴァイオリンの場合、指板を除く本体の部分の長さが35.5cmと決まっている。ヴィオラはヴァイオリンより5度音域が低いので、プロポーションが同じなら理想的な胴長は53cmとなるという。と...
ヴィオラという楽器は形にも大きさにも決まりがない。共鳴体としての楽器の容積は音域と関連があり、ヴァイオリンの場合、指板を除く本体の部分の長さが35.5cmと決まっている。ヴィオラはヴァイオリンより5度音域が低いので、プロポーションが同じなら理想的な胴長は53cmとなるという。ところがそんな大きいものは首に挟んで弾くことはできない。日本だと標準的なヴィオラの胴長は38.5cmであり、理想よりも楽器の容積が小さいことになる。それがヴィオラ独特のあの鼻にかかったような響きを生み出すので一概に悪いとはいえないのだが、もっと朗々とした音色を目指せば胴長が長くなり、長くなると弾きにくくなる。その妥協線を探っていくと42cmくらいまでが一般的な大きさである。もっと大きいヴィオラも数は少ないが流通しており、また特注することもできるが、体格が大きくないと演奏困難である。 このジレンマを解決すべく、20世紀初頭のヴィオラ奏者ターティスは胴長を変えずに容積を稼ぐために胴を横に広げた楽器を製作し、これは今でもターティス・モデルと言われる。現代の製作者でも胴体が溶け出したような珍妙な形をしたペレグリーナという楽器を作った人もいる。完成され尽くしたヴァイオリンに比して、ヴィオラはいまだ発展途上にあるのだ。 本書はそういう大きなヴィオラ、ヴィオラ・アルタのお話である。 なんとまあその楽器は東京にあったのだ、数十年前から。 著者の平野真敏氏がヴァイオリニストを目指して東京の高校に進学したころにはすでに木下弦楽器のショーケースの中に飾られていたらしい。だが、彼は見過ごしていた。大学でヴィオラに転向し、プロとしてヨーロッパでの活動ののち東京に戻ってきた2003年、馴染みのその楽器店の古びたショーケースの中にチェロにしては小さく、ヴィオラにしては大きい変な楽器があることに気づいた。講演会のネタにくらいのつもりで借り出してみるが、胴長は47cmもあり、これを収めるケースもない。講演会で演奏してみると客の反応は頗るいい。 f字孔から製作者のラベルを覗くと、「ヴィオラ・アルタ」と書いてある。平凡社の音楽事典には「ヴィオラ・アルタ」の項目はしっかりあり、ヘルマン・リッター考案の大型ヴィオラで、ヴァーグナーやリヒャルト・シュトラウスも賞したが、大型のため扱いが不便で一般化しなかった、などと書いてあった。 そこで著者のヴィオラ・アルタ探求が始まる。 まずは楽器自体を細かく検分する。そして藝大図書館。 ヘルマン・リッター(1849-1926)はドイツのヴィオラ奏者で、大きなサイズのヴィオラ製作に心血を注ぎ、1876年にヴィオラ・アルタを完成、1889年には5人のヴィオラ・アルタの弟子とバイロイト祝祭音楽祭に参加。云々。 そして他にもリストの《忘れられたロマンス》は「ヴィオラ・アルタの発明者リッター教授」に献呈されていたり、ヴィオラ・アルタの足跡はそこここに見いだせるのであった。 著者はヴィオラ・アルタの演奏に人生を賭けることにする。 後半はヨーロッパでヴィオラ・アルタゆかりの地を訪ね、この楽器がかつて存在した証拠を探っていくのだが、それこそ謎解きのようで面白い。一時期、ドイツのヴィオリストがみなヴィオラ・アルタを持ったなどということはないにしても、それなりに知られたものだったようだが、それがすっかり忘れられたことについて著者は政治・社会的な要因と推測する。すなわちナチスとドイツの敗戦。 それはそれなりに説得力があるが、実際のところは大型のため扱いが不便ということに尽きるのではないか。著者はヴィオラ・アルタは一般のヴィオラとは別の楽器というが、それはヴィオラ・アルタ奏者を名乗り、ヴィオラ・アルタの復興を目指すがゆえの台詞であり、やはり大きなヴィオラであることに間違いはない。上述の通り、ヴィオラには決まったプロポーションもサイズもないのだから。 私は42cm(16.5インチ)の楽器を弾いているが、あと1インチくらい大きな楽器なら弾けそうでも、2インチ大きいと左手、特に小指で音程がとれるか心許ない。著者はヴィオラ・アルタを弾いて体を壊すようなことはないというが、ヴァイオリン奏者でも腕や首に故障を起こす者がいる。大きな楽器ならばそうした故障者の出る確率はさらに大きくなるだろう。 それでも一部のヴィオラ弾きはとにかく大きな楽器に惹かれる。だから大きなヴィオラは一般化はしなくても支持者がいなくなることもないのである。
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