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自然と共に生きる作法・水窪からの発信
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自然と共に生きる作法・水窪からの発信

野本寛一【著】

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自然と共に生きる作法・水窪からの発信

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商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 静岡新聞社
発売年月日 2012/12/10
JAN 9784783810834

自然と共に生きる作法・水窪からの発信

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2013/03/24

・野本寛一「自然と共に生きる作法●水窪からの発信●」(静岡新聞社)は実におもしろ い。静岡県の、現在は浜松市天竜区に含まれてしまつた旧磐田郡水窪町の民俗誌を中心とした書であるが、報告書ではないからより自由な書き方でまとめられてゐる。副題に「水窪からの発信」とあるやうに、厖大な、水...

・野本寛一「自然と共に生きる作法●水窪からの発信●」(静岡新聞社)は実におもしろ い。静岡県の、現在は浜松市天竜区に含まれてしまつた旧磐田郡水窪町の民俗誌を中心とした書であるが、報告書ではないからより自由な書き方でまとめられてゐる。副題に「水窪からの発信」とあるやうに、厖大な、水窪で「蓄積され、熟成されてきた体験知や伝承知」 (22頁)を「ひとり『水窪再生』の骨髄になるばかりでなく、自信を喪失し、方途を見失いつつあるこの国の多くの人びとに復活、再生のための大きな示唆を与えてくれる」(23頁)ものとして示さうといふ意図で書かれたものである。だから、筆者の現代日本文明に対する危機感のやうなものが本書のあちこちに見られる。本書の少し前に刊行された遠州常民文化談話会編「水窪の民俗」は当町の包括的な報告書だが、この指導をしたのが本書の著者野本氏であつた。栃の実に関する文章は本書に重なるし、調査対象者の一部も重なる。併せて読 むべき1冊であらう。 ・そんなことを書きながら全く関係のないことを書いてしまふのだが、本書の序章は「水窪の座標」といふ。これは「『雪カンボー』の話」といふ綿虫に関する一文で始まる。井上靖「しろばんば」のシロバンバは綿虫であり、牧之原市蛭ヶ谷できいたオマンも綿虫である。 水窪ではそれをユキカンボーといふやうである。蛭ヶ谷では亥の子と結びつき、水窪では雪と結びつく。「綿虫の伝承は、環境民俗学の指標として考えることができる」(9頁)のださうである。ここで思ひ出すことがある。豊橋市牟呂町では綿虫をオカンコーリと言つた。この方言は他であまり見られないやうであるが、牟呂では綿虫を「オカンコーリ、つめたい氷」と歌つたのである。語呂合はせであるが、綿虫は俳句の季語としては冬であるから、そんな季節感も踏まへてゐるのであらう。豊橋ではいくら寒くなつても雪などめつたに降らないのだから、ユキカンボーなどといふ語の生まれやうはずがない。せいぜい氷がはるくらゐである。するとオカンコーリも「環境民俗学の指標」となるといふことであらうか。先のオマンは西遠地方に多く、ぼた餅と結びつく。ぼた餅は亥の子のぼた餅、つまり、綿虫は亥の子と結びつく。亥の子は陰暦10月亥の日の行事である。従つて季節は冬、これも「環境民俗学の指標」なのであらう。水窪や南信では雪の舞ひ始める頃に綿虫が舞ふので雪絡みの呼称となる。雪に馴染みの薄い地ではその地のそれらしいものを呼称とするといふことであらうか。 たぶん、これも伝承知、体験知なのであらう。これこれがかうなると何の季節だとか、何の作業を行へとかの言ひ伝へは多い。直接農作業 や生業には結びつかなくとも、これは綿虫、つまり昆虫を季節、気象の予兆とするといふ体験知なのである。本書にはこの類が数知れない ほど出てくる。そんなもの、昔はどこにでもあつた……たぶんさうに違ひない。ただ、それが都市化により消えたり、過疎化により消えたりして、現在までは伝へられてゐないだけのことである。水窪にも限界集落を越えた地区が多い。残り1戸、人口1人、である。それでも 伝へられる知恵がある。生業関係等の、生きていくうへで欠かせない知恵は貴重である。書名は本書第二章から採られた。ここで栃の実の 食し方が詳しく紹介される。この部分は先の報告書にも載る。実におもしろい文章である。これだけでも経験値、伝承知の粋を味はへる。 さう、正に味はふのである。秋に実を拾つて冬に食ふ。水窪では飢饉でなくとも食つた、常食したのである。そんな経験知を発信する本書は民俗学者の心豊かなエッセイと言へる。味読すべしである。

Posted by ブクログ

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