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小説 森鴎外 ヴェネチアの白い鳩
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 新人物往来社 |
発売年月日 | 2012/11/24 |
JAN | 9784404042729 |
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小説 森鴎外
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「愛の在り処―最終的にはやはり本人にしかわかりませんが。」 明治の文豪森鴎外は、文人であるとともに時代の中枢とも深く関わりのあった軍医でもあった。ドイツへの留学、小倉の赴任時代、日露戦争への従軍と、多彩な人間関係の中で明治を駆け抜けた鴎外の生涯を、鴎外自身のモノローグで綴る。...
「愛の在り処―最終的にはやはり本人にしかわかりませんが。」 明治の文豪森鴎外は、文人であるとともに時代の中枢とも深く関わりのあった軍医でもあった。ドイツへの留学、小倉の赴任時代、日露戦争への従軍と、多彩な人間関係の中で明治を駆け抜けた鴎外の生涯を、鴎外自身のモノローグで綴る。 『舞姫』を読んで、事の真相はどうだったのだろうと、気になって本書を手にしました。膨大な作品や資料をもとにした著者の推理や想像ということを念頭におけば、本書に書かれていることも一つの解釈に過ぎないとは思いますが覚書のつもりで書いてみようと思います。 鴎外の生涯において欠かすことのできない女性は3人。最初の妻、赤松登志子。佐世保の赤松男爵の令嬢で、ドイツ留学から帰国後、鴎外の母の強い働きかけにより結ばれた縁でした。ベルリンでの恋破れ生ける屍となった鴎外の妻となり長男・於莵を儲けますが、結婚生活はその後破綻し登志子は離縁されています。性格が合わなかったこともありもちろん別れた妻でもあるので仕方が無いとも言えますが、彼女については気の毒なくらい本書では触れられていません。登志子はその後病死していますが、結婚のタイミングの悪さといい縁の薄さといい、鴎外に関わる女性の中では最も同情すべき女性かもしれません。 2人めは明治35年に後妻として迎えた荒木志げ。彼女は鴎外より18歳年下で再婚同士でしたが、彼女とは細やかな愛情を育み、茉莉、杏奴、類の3人の子を儲けました。嫁姑の確執には悩んだものの、一人の男としての林太郎に愛され、森鴎外の妻としてその最期を看取ります。本書でも各章の最後に「愛の形見」として志げの回想が挿みこまれ、夫として父として終始家族へ愛情を注ぎ続けた鴎外の横顔を知ることができます。 そして本書の中では生涯その面影を背負い続けることとなるベルリンの女性・エリーゼ・ヴィーゲルト。彼女にはベルリンで洋服の製造業を営む父と兄がおり、舞姫ならぬ堅実な職人の家庭の娘として描かれています。小さな教会での出会いをきっかけに彼女と恋に落ちた鴎外は帰国の際には日本へ連れ帰り、家族や上司を説得し妻とするつもりでした。エリーゼも鴎外を信じて時を置かずして日本へ彼を追ってきます。しかし、家族の猛反対にあい、またエリーゼが日本で生きていくことの困難さを思い遣った鴎外は彼女を滞在させていたホテル築地精養軒において、断腸の思いでエリーゼに別れを告げます。 鴎外にとってエリーゼが異国の地での慰みものなどではなく生涯忘れ得ぬ青春の痛みであり面影であったことは、それが墓場まで持っていく覚悟であったゆえに、臨終の際にはこよなく愛した妻・志げを信頼し、彼女にエリーゼからの手紙をすべて焼くよう伝えていることからも感じられます。 ドイツ留学時代の章を読むと、当時ヨーロッパの日本人留学生社会では、現地女性との恋愛がごく普通に行われていたことがわかります。その中には困難を覚悟で現地の女性を妻とした要人がいました。ドイツ人女性と再婚した青木周蔵ドイツ公使、ヴェネチアでイタリア人女性を妻とした、医師で親友の緒方収二郎の兄・惟直。(緒方洪庵の4男)惟直は真実の愛を貫き妻・マリアとの間に娘・とよを儲けると、日本とのしがらみをすべて断ち切ってヴェネチアの土となりました。鴎外は折に触れ自分の果たせなかった夢を全うしたこの惟直を思い起こし、彼亡き後はその忘れ形見・とよを日本へ連れ帰ることに尽力しています。 とよは結びの章で一度だけ登場し、恩人・鴎外について回想しています。その中にある鴎外の『即興詩人』から引かれたヴェネチアの描写が美しい。とよにとってはヴェネチアは父母の思い出の地であり、生まれ故郷でもありました。「ヴェネチアの白い鳩」はこの回想の中で父・惟直のエピソードとして語られています。 鴎外にとってのヴェネチアとはどういう場所だったのでしょう。この「ヴェネチアの白い鳩」という副題を見たとき最初は、なぜヴェネチアなのか、鴎外ならばベルリンではないかと違和感を覚えました。しかし本書を読み終えてみると、鴎外にとってベルリンは公私ともにもはやあまりに現実的に過ぎたのではないかと感じられました。決して叶うことのなかった願いを、鴎外は彼にとって夢と現の狭間にあったヴェネチアに結んでいたのかもしれません。 ※著者は自身も医師であり、献辞には「生誕百五十年に際し、本書を森林太郎先生に捧げる」とあった。500ページに迫る2段組の大作で、その熱意が充分に伝わってくる。ただ如何せん脱字が多い。校正の甘さによるものと思われるが、せっかくの著作に瑕がつくことにもなり残念に思う。
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