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深重の海 集英社文庫
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 集英社 |
発売年月日 | 2012/11/20 |
JAN | 9784087450064 |
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深重の海
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商品レビュー
3.5
4件のお客様レビュー
1978年の直木賞受賞作品。衰退していく古式捕鯨の物語。全体のトーンは暗い。それでも孫才次の無垢さが救いになっている。
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南紀太地。 紀伊半島南東部にあるこの地は、古くから古式捕鯨と呼ばれる鯨漁を行ってきた。何艘もの小舟に乗った男たちが鯨を取り囲み、網をかけて銛を打つ。入り江に引き上げられた鯨は解体され、余すところなく利用される。鯨一頭で港全体が潤う富が得られる。 鯨漁はチームワークである。 山見と...
南紀太地。 紀伊半島南東部にあるこの地は、古くから古式捕鯨と呼ばれる鯨漁を行ってきた。何艘もの小舟に乗った男たちが鯨を取り囲み、網をかけて銛を打つ。入り江に引き上げられた鯨は解体され、余すところなく利用される。鯨一頭で港全体が潤う富が得られる。 鯨漁はチームワークである。 山見と呼ばれる見張り場所から鯨を見つけると、狼煙で知らせが来て、勢子舟(せこぶね)、網舟、持双舟といった舟が沖を目指して漕ぎ出す。網を下すのが網舟、鯨を網に追い込んでいくのが勢子舟、鯨を港まで運んでくるのが持双舟である。 網にかかった鯨に銛を打つのは「刃刺(はざし)」と呼ばれる男たち。世襲の仕事である。「刺水主(さしかこ)」はその見習い格で刃刺の息子がなるものとされる。鯨の鼻に綱を通す穴をあける「手形切り」は危険な作業だが、刺水主が刃刺になる前に必ず行わなければならない洗礼のようなものだった。 全体を統括する「沖合」は鯨漁の成否を左右する重要な役目。刃刺の筆頭で、彼の指揮ですべてが決まる。 本書は明治期の太地を舞台とする歴史小説。 大きな時代の転換期、太地の鯨漁も岐路に立たされていた。 鯨が捕れない。 村は赤貧にあえぎ、「うけじゃ」と呼ばれる芋の粥もごくごく薄いものしか食べられない。年の瀬、借金まみれの人々は、正月を迎えるために、さらに借金をするしかない。年が明けても返せなければ、舟は借金のかたに取られ、娘たちは身売りをすることになる。 ここで1頭、鯨が捕れれば。皆、一息つけるはずだった。 そこへ天恵か、立派な背美鯨(せみくじら)が現れた。男たちは勇み立つ。 意気揚々と向かう先にいたのは、しかし、不吉とされる子連れの母鯨だった。 物語は史実にある「背美流れ」を追う。明治期、背美鯨を追う鯨漁の一団が潮流に流され、多くの犠牲者を出した海難事故である。 沖合の近太夫には悪い予感があった。しかし、この背美鯨を追わぬわけにはいかなかった。村は鯨を、金を必要としていた。しかし、この判断が予想を超えた大惨事を引き起こす。 近太夫の孫にあたる孫才次は、この漁で手形切りをするつもりだった。早く一人前になり、恋人のゆきと所帯を持ちたい。初々しい決意とともに舟に乗り込む孫才次の前に、大海と巨獣が立ちはだかる。 前半の山場は母鯨と男たちの対決場面で、その臨場感は特筆に値する。 身体を張り、命を懸け、鯨に向かう男たち。けれども鯨も子を抱え、必死で抵抗する。死闘の果て、どうにか鯨を仕留めたが、潮の流れは予想以上に早く、船団は沖に流されかけていた。 「背美流れ」は村に大きな傷を残した。 だが、その後も闘いは続く。村人たちはどうにか生きていかなければならなかった。 太地で捕れる鯨が減ったのは、欧米やロシアの船が、火薬を使う効率のよい漁で沖にいる鯨を根こそぎ捕獲してしまうためだった。それまでは太地の浜近くまで来ていた鯨がその手前で捕り尽されてしまうのだ。 太地の人々は、北海道に進出しての捕鯨に活路を見出そうとするが、そのためには大金が、つまりパトロンがいる。彼らは金づる探しに奔走するが、さて、これはうまく行くのだろうか。 そうこうする一方で、コレラの影が忍び寄る。明治期、鎖国の終結とともに入り込んだ流行り病は何度も各地で猛威を振るった。それが村にもやってこようとしていた。 人は負ける。負け続ける。 それでもあえぎながら、のたうち回りながら、人は闘い続ける。 孫才次は、周囲の大切な人を次々と亡くしながら、弱気にもなりながら、生きる闘いをやめない。 最後の最後まで、彼の闘いは負け戦だ。 あるいは古式捕鯨自体が滅びゆく運命だったのかもしれず、彼には最初から勝ち目はなかったのかもしれない。 だが彼の闘いはその弱さゆえに、いっそう胸を打つ。 立ち上がり、打ちのめされ、また立ち上がり。 そうして紡がれてきたものに、ふと思いを馳せる。 第79回直木賞受賞作。
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読み応えのある力作でした。 明治十一年に実際に起きた悲惨な海難事故に材を取りつつ、是を仏教文学の思想を交えてテイスティングしていく。 板子一枚下に広がる無辺の地獄。生命と生命の格闘。生きるという苦難。愛別離苦。而して無常。 台詞の殆どが和歌山県の古い方言である...
読み応えのある力作でした。 明治十一年に実際に起きた悲惨な海難事故に材を取りつつ、是を仏教文学の思想を交えてテイスティングしていく。 板子一枚下に広がる無辺の地獄。生命と生命の格闘。生きるという苦難。愛別離苦。而して無常。 台詞の殆どが和歌山県の古い方言である為、可也読み難い部分は有るものの、臨場感や迫力はその分申し分無いものがある。特に前半の鯨との闘いは白眉。後半は軈て滅びを迎える鯨方と村の命運が描かれ、此方は寧ろ思想の色合いが強い。 自分はそもそも題材となった事件に就いて寡聞にして知らなかった。明治十一年十二月二十四日、悪条件の重なる中、背美鯨の深追いが招いた大惨事。慶長以来四百年続いた古式捕鯨の終焉である。 不運か、将又必然か。この災害は自然に齎されたのか、或いは人為に由来するものか。何方とも云い切れない複雑な因果を孕んでいる。
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