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ヴェールの政治学
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商品詳細
内容紹介 | |
---|---|
販売会社/発売会社 | みすず書房 |
発売年月日 | 2012/10/25 |
JAN | 9784622076896 |
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ジェンダー史の研究で有名なジョーン・スコットによるフランスの学校でのムスリム少女たちのスカーフ着用を巡る論争についての政治的、歴史的な分析。 この問題については、フランスには、信教の自由、言論の自由、表現の自由があるはずなのに、何が問題になっているのか、当時はよくわからなかった...
ジェンダー史の研究で有名なジョーン・スコットによるフランスの学校でのムスリム少女たちのスカーフ着用を巡る論争についての政治的、歴史的な分析。 この問題については、フランスには、信教の自由、言論の自由、表現の自由があるはずなのに、何が問題になっているのか、当時はよくわからなかった。結局のところ、反移民、反イスラム感情が、こういう形で出ているんだろう、そのうちそういう感情的な議論も収まるだろうと思っていたら、公教育機関でのスカーフ着用禁止が法制化されたということで、驚いた。 人権やジェンダーに最近個人的な関心があって、そういえばあれって何だったんだろう?というかつての疑問を思い出して、読んでみた。 この問題に関する本を読むのは初めてなので、これだけで判断するわけにはいかないとは思うのだけど、著者の分析は明快で説得力のあるものだと思った。 結論的には、反移民、反イスラム感情がこういう形で表現されているという私の理解と同じといえば、同じなのだけど、問題はかなり複雑。 単純に右傾化した人々がスカーフに反対しているのではなく、一部の左派系の人も積極的な反対論を展開していたりする。どうも、フランスの世俗主義というのが論点になっているらしい。個人の自由としての信教の自由はあるのだが、それ以上にフランス共和国のベースにある啓蒙主義、理性主義、合理主義、科学主義などが優先されるべきという話しらしい。 私は、フランス自体、カトリックが強い宗教的な国家なんじゃないかと思うのだが、イスラムのヘッドスカーフの着用を認めるくらいなら、すべての宗教的なものの誇示を認めないという論立てにして、法律を作ってしまう、これは何なんだろうか?ちなみにこれによって、大きな十字架の着用も認められないようになった(小さなものは良い)。 というあたりを著者は、人種主義、世俗主義、個人主義、セクシュアリティという切り口で、歴史的、社会的、政治的、文化的な文脈を紐解きながら、冷静に分析している。と言っても、客観性を主張するわけではなく、自分の経験も織り込みつつ、自分の政治的なスタンスも明示しての議論は好感が持てた。 フランスの現代史に詳しくないので、読むのに時間はかかったが、書いてあること自体は難解というわけでもないので、関心がある人は読んでみるといいと思う。 個人的になるほど感が高かったのは、 ・問題になっているのは頭につけるスカーフで、それを着けていても顔は見える状態であるにもかかわらず、スカーフ着用反対派の多くは、ヴェールという言葉を使っている。このことによって、顔を隠すということがフランスの価値観とは合わないという方向に議論を進めている ・スカーフを着用している女学生は、親の強制によってつけているわけではなく、自分の意思によって(しばしば自らのアイデンティティの表現、今の社会へのレジスタンス)、つまるところ個人主義的な自己決定で着用しているのだが、反対論者は彼女たちの主張をほとんど取り上げることなく、イスラム教の父権主義、女性への抑圧、反個人主義と結びつけて批判している。 といったあたり。 著者は、最後の方で、フランスにおけるポスト・コロニアルといった表現を使うのだが、これもなるほどと思った。つまり、ポスト・コロニアルは、旧植民地だけにあるのではなく、対称として旧宗主国にもあるわけだ。 この視点は、日本を考えるときに役に立ちそうな気がする。つまり、戦後の日本はアメリカの占領下にあって、今、安全保障の問題などについて考える時に、日本のポスト・コロニアルという状況がいやでも浮かび上がってくる。だが、実は、戦前〜戦中は、大日本帝国として植民地を抱える国家であり、旧宗主国としてのポスト・コロニアルという視点でも考える必要があるということ。 この辺りは、最近、何となく考えていたことについて深めていくのに、明確な視点をもらった気がする。
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流し読みで読んだので細部は分からないが、世俗主義を謳ってムスリム移民を対象にヴェールの規制が行われているフランスの政治状況が印象に残っている。 西洋の帝国主義的な立場では、非西洋的で文明化されていないものを文明化するのが使命であるということが共通意識として持たれていたことがわかっ...
流し読みで読んだので細部は分からないが、世俗主義を謳ってムスリム移民を対象にヴェールの規制が行われているフランスの政治状況が印象に残っている。 西洋の帝国主義的な立場では、非西洋的で文明化されていないものを文明化するのが使命であるということが共通意識として持たれていたことがわかった。 イスラム圏をめぐる対立構図は非常に難解で複雑であるように思う。
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※このレビューにはネタバレを含みます
ジョーン・W・スコット『ヴェールの政治学』みすず書房、読了。2004年、フランス政府は公立学校でのイスラームのヴェール着用を禁止した。自由・平等・博愛の国で個人の尊厳が侵害されるというパラドクス。本書は『ジェンダーと歴史学』(平凡社)で名高い歴史学者が経緯を明らかにする一冊だ。 制定理由はライシテ(世俗主義)の防衛である。しかし建前に過ぎない。かつてはターバン(シーク教徒)やキッパー(ユダヤ教徒)は問題にされていない。ムスリムに対する“狙い撃ち”。未だフランスはムスリムを対象化できていないのである。 フランスでは総人口の1割に近いムスリムが存在する。しかし、多くのフランス人にとってヴェールとは、イスラーム文化の後進性と女性に対する抑圧という認識だ。フランス人になるためには、イスラーム性は放棄すべきとの条件を提示する。 ここに普遍主義と特殊主義が交差する。人権の普遍性を謳うがゆえに、これに従わない人間を排除するパラドクス。ヴェールの着用=共和国の理念のひとつ(ライシテ)への侵害と捉えるから、普遍が特殊に歪曲されてしまう。同化の再考が必要。 普遍的であることを共有するとは、何かの条件を満たすことで、それが到来するとすれば異なるものになってしまう。そうではなく、「差異」こそが全てのひとに共通なるものとの認識が不可欠であろう。本報告は他山の石とせねばなるまい。了。
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