荻窪ラプソディー ブル先生の日々是好日

畑中良輔【著】

• 販売会社／発売会社: 音楽之友社
• 発売年月日: 2012/07/14
• JAN: 9784276201965

商品レビュー

2012/08/06

５月に亡くなった往年のバリトン歌手のエッセイ。
９０歳なら大往生との感想が普通だろうが、著者についてはもっと活躍して欲しかったと思う方が多いと思う。
このエッセイでも藤沢市の音楽振興の会議で朝１０時に荻窪駅にいなくてはという文章の後、コンサートのあと食事をし、原稿執筆で就寝４時を廻ることもしばしばとあり、唖然とする。病院に担ぎ込まれても原稿に追われ、看護婦さん達に呆れられる。結局、皆が著者を頼っていたということだと思う。
クラシックや声楽以外でも、歌舞伎や文学、演劇、美術と語る内容の豊富なこと。紀州の旅行記では伊勢の神々を語り、佐藤春夫、大逆事件、娘道成寺、万葉和歌とその好奇心と溢れ出る知識は尽きることがない。

同僚の声楽家、作曲家、小説家、歌舞伎役者との交わりも多く記されている。著者は批評家としても一流の文章家だったと思い知らされる文章。
音楽学校を目指した若き日や兵隊時代のことも記されている。その美食家ぶりや演奏での失敗談、闘病記。沢山の話題すべてを楽しく読み終えた。

もう畑中先生の新しい文章に逢えないのかと思うと、残念でならない。