ヒトラーのウィーン

中島義道【著】

• 販売会社／発売会社: 新潮社
• 発売年月日: 2012/01/18
• JAN: 9784104397082

商品レビュー

2013/08/11

「ヒトラーの人生に最初にNGを出した街」

悪名高いホロコーストで世界を恐怖に陥れたアドルフ・ヒトラーが、ミュンヘンへ進出するまでの5年間、その挫折時代を過ごした街ウィーン。彼にとってウィーンとはどのような意味を持つ場所であったのか。自身もウィーンに深い縁を持つ著者がその謎を追う。

　ヒトラーがもともと美術で身を立てたくて、ウィーンを目指し造形美術アカデミーを受験するも２度失敗し挫折時代を過ごしたことは良く知られている。彼の美術的才能がどうであったかはともかく、もしここで受験に成功し某かの芸術活動に携わる人生に進んでいれば、世界史上稀なるホロコーストの悲劇は無かったかもしれない。歴史にIFが無意味なことは承知の上だが、著者同様やはりそう思わずにいられない。

　著者は、自分の思うこと＝現実として捉えたり、その虚言癖からどこまで真実か疑わしいとしながらも『わが闘争』や彼の唯一のウィーン時代の親友・クビツェクの『アドルフ・ヒトラーの青春』といった記録に自身のウィーンでの体験や情報を取り混ぜながら、人生最初の希望をくじかれ野良犬のようなウィーンでのヒトラーの足跡を検証していく。

　その検証は最終的に彼はいつ、なぜ、どのようにして反ユダヤ主義を登り詰めたのかというところに行き着くのだが、あとがきにおいて著者は「ひとりの個人を具体的な行動に駆り立てたもの（動機、意志、意図、衝動）など、どんなに研究しても所詮「わからない」」という。歴史上のどのような人の一生も結果から導く推論に過ぎないということだろうか。

　その意味において、本書を読んで確実に言えると思ったこと。ヒトラーが十代後半という多感な時期に憧れの街・ウィーンに受け入れられなかったということは、彼の性癖がどうであれ、やはり彼の人生を左右する大きな出来事であったに違いない。それが結果的にヒトラーにとってどのような意味を持つ街になったとしても、ウィーンとは彼の人生に最初にNGを出した街であったということだ。

2013/07/29

哲学者である筆者が、自身の人生において意味が深いウィーンを舞台に、同じくそこで青年期を過ごしたヒトラーの足跡や心情を、数々の場所をキーワードにして考察した本。

芸術家を志したが、ウィーンという都市にことごとく拒否された頃のヒトラーの惨めさが、生々しく伝わってきた。
ただ、特段、ヒトラーだからというエピソードは無く、才能と努力を否定された一人の青年の姿があるだけ。
この男が、並外れた何かを持っているとは、このウィーン時代を見る限りは、到底思えない。

筆者も最後に書いているが、人間が何を駆り立てるか、そして、その行動に対する、運命の符合の奇妙さというものを、これほど思わせてくれる人生も、確かに無い。

2013/05/04

ヒトラーのユダヤ人憎悪にはウィーンでの住宅問題がある。格差が激しい。
ウィーン世紀末の輝きは哲学、文学、物理学、経済、法律、精神医学など諸学問に音楽、絵画、工芸、建築などあらゆる芸術が一体となったものだった
ユダヤ人は抹殺したいが、血を見たくないというヒトラーはガス室で殺害したのではないか、という仮説。
ヒトラーにとって反ユダヤ主義はあくまでも彼の理性的判断によって到達したこと。
ヒトラーは基本的に他人が必要なかった一人でいることに満足し、全く孤独を感じないほど孤独だった。少年時代は典型的な引きこもりだった。