うさぎ美味しい、かの山 嗚呼、懐かしき悪ガキ時代

加来匠【著】

• 販売会社／発売会社: つり人社
• 発売年月日: 2011/08/18
• JAN: 9784864470070

商品レビュー

2011/12/12

「”♪ウサギ追いし、かの山”って”ウサギ美味しい”って間違って歌詞を覚えていない？でもそれはそれは単なる思い違いでしょ。でも僕はね、本気で”ウサギは美味しい”って思っていたんだな。だってさ、実際によくウサギを捕まえて食っていたんだもの」と、前書きで語る著者は1949年生まれで小学校低学年までを長崎市郊外で過ごす。そしてその時に近所の山や川を駆け巡った思い出を小説風に仕立てたのが本書。

ウサギの遊ぶ丘のあちこちに其処に生えている草の上部を縛って輪っかを作り、ウサギを追い立てるとその輪に引っ掛かりウサギを取る。かすみ網でヒヨドリを一網打尽にする。焼酎に付けたヒエ・アワを捲いて寄ってきた雀が酒に酔ってフラフラした所を捕まえる。近所の魚屋さんで魚のアラを貰いカニ釣り。子供にも出来る猟だが、それらを捕まえる楽しさは何物にも変えられないし、それ以上に獲物は全て夕飯の食卓に乗るのだ。

自分に比べると約10年早く生まれたとはいえ、こちらは北海道の片田舎。それに比べれば幾ら市のはずれと言えども大都市・長崎だから其れほど生活環境に大きな違いがあるとは思わなかったが、実際の生活風景は大きく違っていたようだ。水道も無く井戸の生活なんて知らないからな。

戦後が落ち着き高度成長時代の幕開けと共に、こうした昭和の原風景はあっという間に消え失せたようだから「ウサギ美味しい」を知っている世代は今となっては貴重だ。今更あの頃に戻りたいとは思えないだろうが、語れる歴史は貴重だ。