イギリス短篇(24)

丸谷才一(著者)

• 販売会社／発売会社: 集英社
• 発売年月日: 1987/04/01
• JAN: 9784087730791

商品レビュー

2022/08/01

「接吻して」Kiss me again,Stranger デュ・モーリア著
夜の墓地に横たわる愛しい女。
1952発表なので、主人公の私は除隊後、身の振り方を決める前に、暫く様子をみることにして、それからハムステッドでエンジン修理の仕事についた、という出だしで始まる。終戦後５，６年のイギリスの情景。私は仕事が終わり、下宿屋の夫婦と食事をする（賄い付きなのだ）と、映画館に行く。そこで切符切りの女性に惹かれる。席の案内も親切にしてくれ、劇場がはねたあと待ち伏せして待っていても受け入れてくれる、さらに女の乗るバスに飛び乗ると、お墓のある所で降ろしてくれという。私を素直に受け入れた女、それに吸い込まれる若い男、そして女は墓地の石に横たわり、接吻して、と言う。なにやら暗い、ぬめぬめとした情景に惹かれた。ここらへん「牡丹灯籠」のような雰囲気。女は空襲で家を失い、男に「あなた空軍？」と聞くと、男はいや「工兵隊の技術兵だった」と言う。街では空軍の制服を着た男が殺される事件が続いていた・・

　短編集「林檎の木」（1952刊）、短編集「鳥」（東京創元社 2000刊）に「恋人」という題名で入っている。

1972.6.20第1刷、1987.4.10第5刷　図書館