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蒼穹のアトラス (1) アマゾーヌ郷からインディゴ双ツ島まで-アルファベット二十六国
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | BL出版 |
発売年月日 | 2000/03/18 |
JAN | 9784892387326 |
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蒼穹のアトラス (1)
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これを絵本というと誤解を招きそうだが、水彩と思われる透明度の高い彩色と精緻な描写は安野光雅の『旅の絵本』シリーズを思い出させる。大きく異なるのは『旅の絵本』が主にヨーロッパの都邑を写実的に描いていたのに対し、こちらは、欧州から見て、辺境に位置する異郷の人々の暮らす土地を描いている...
これを絵本というと誤解を招きそうだが、水彩と思われる透明度の高い彩色と精緻な描写は安野光雅の『旅の絵本』シリーズを思い出させる。大きく異なるのは『旅の絵本』が主にヨーロッパの都邑を写実的に描いていたのに対し、こちらは、欧州から見て、辺境に位置する異郷の人々の暮らす土地を描いているという点である。しかもこれ以上は望めないほどの写実的な筆致で既視感に溢れながらも現実には有り得ない仮想の領土や異形の人々、動物を。 前書きに拠れば今はなきオルベという神秘の島国にはそうそうたる地理学者がそろっていた。彼らが地球上を旅して作り上げた地誌体系も今となっては跡形もない。ただ一つ我々に遺されたのが、この『蒼穹のアトラス』ということになる。副題に「アルファベット二十六国誌」とあるように、AからはじまりZで終わる頭文字を国名に持つ26国に纏わる話を収集した形を取る。Ⅰには、そのうち「アマゾーヌ郷からインディゴ双ツ島まで」が収められている。 フライ師の言う通り、この作品もすでに先行する物語や、歴史書、探検の記録、さらには地図、図版、絵画などから想を得たと思われる引用から成る。作者はめったに外に出ず、書斎に閉じこもっては、書物や古地図に埋もれながら仮想の領地を渉猟しているらしい。そうして踏破した氷壁の地や断崖絶壁を自らペンを執り、精緻細密な絵に仕上げ、然る後に本文に取り掛かるのだという。 世に視覚型の作家は多い。言葉を駆使して、自分の頭に浮かび上がる都市や密林、砂漠を描き上げることに魅力を感じ、描写の限りを尽くす。読者にもまた、それら言葉によって構築される世界を読み、自分の中で再構成することを喜ぶ向きがある。そういう時、下手な挿絵はむしろ邪魔になる。しかし、例外がないわけでもない。ドレの描いた『大鴉』や『神曲』のように、文と照応して、より劇的な効果をあげる場合も稀にある。 プラスのように、挿絵画家兼作家というのは、自分のイメージがそのまま、自分の手で視覚化されるという点で稀有な例といえる。原文を知らないので確かなことは言えないが、横長の画面いっぱいに描かれた絵は、いずれも文より多くを物語っているように思える。基本的には風景画家ではないか。絵の中に描かれた人間はいずれも小さく、表情もない。それに比して、人跡未踏の峨峨たる山稜や、黄漠たる砂漠を描くとき、画家の技量は冴える。 彼が描きたかったのは、現実には眼にすることのできない、今はない太古の自然や、オリエントやラテン・アメリカ、アジア等にあるテラ・インコグニタ(未知なる領域)の神秘的な風景であったろう。人物は、その世界を描き出すための点景でしかない。現代の作家にとって、世界はすでに既知の物としてある。誰も知らない世界の地誌を書こうと思えば、それを捏造するしかない。かくして、26の国々はいずれも何処かで見たような風景でありながら、どこか少しずれを含んだ奇妙な世界として現れるしかない。 かの『東方見聞録』に黄金の島ジパングとして描かれた極東の島国は、ここでは、「豊葦原瑞穂の国」の名に相応しく葦の大草原の向こうに端正な弧峰が聳えるインディゴ双ツ島として描かれている。北斎の浮世絵の構図を思い浮かばせる大胆な風景の中に描かれる家の形が東南アジア風の高床式住居であるのは、作者の悪戯だろうが、サイードでなくとも、この手の露骨なオリエンタリズムの発露にはいささか複雑な思いが残るのは如何ともしがたい。
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