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白桃 野呂邦暢短篇選 大人の本棚
定価 ¥3,080
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | みすず書房 |
発売年月日 | 2011/04/21 |
JAN | 9784622080893 |
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白桃
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(野呂邦暢著/豊田健次編/みすず書房/2800円+税)ブックデザインはみすず書房の編集者・尾方邦緒さん。 http://www.msz.co.jp/book/detail/08089.html みすず書房の「大人の本棚」シリーズは、この『白桃』だけに限らず、どれもすてきな装丁だ...
(野呂邦暢著/豊田健次編/みすず書房/2800円+税)ブックデザインはみすず書房の編集者・尾方邦緒さん。 http://www.msz.co.jp/book/detail/08089.html みすず書房の「大人の本棚」シリーズは、この『白桃』だけに限らず、どれもすてきな装丁だ。シリーズ全て、カバーは凸版で色ベタが印刷され、そこに題箋を模したタイトルが刷られている。紙自体に細いエンボスラインが入ったNTストライプGAを使っていて、そのエンボスラインもまた、この教養高いシリーズに合っている。薄表紙でしなやかな造本も、読みやすくてすきなところ。シリーズ通していいのだが、この『白桃』はカバーのビンクが何とも言えずいい色。
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『「え?」「いや、何でもない」と弟は口ごもった。目のまえに出現した夜景の珍しさを再び兄に語ろうとして、そのとき自分の見ている物を兄もまた必ずしも見ているとは限らない、ととっさに理解したのである』-『白桃』 主人公の悩みはもっぱら決断すべきことを決断できぬままに打ち遣っておくこと...
『「え?」「いや、何でもない」と弟は口ごもった。目のまえに出現した夜景の珍しさを再び兄に語ろうとして、そのとき自分の見ている物を兄もまた必ずしも見ているとは限らない、ととっさに理解したのである』-『白桃』 主人公の悩みはもっぱら決断すべきことを決断できぬままに打ち遣っておくことから生じる厄介に関するものだ。その決断しなければならないことというものだって大層なことではなく、例えば、万歳と叫ぶことであったり、止まれと声を掛けることであったり、という自分の意志さえ働けば、何も倫理上の禁忌を破ってまでというような重々しさのない、まるで葛藤することなど必要のないことばかりなのだ。にも拘わらず主人公たちはおしなべて決断を先送りにし、葛藤とも呼べないような葛藤を続ける。 短気な質の人からすれば全く以て共感することなどできないような態度に見えるだろうと思うけれど、不思議とその不必要な逡巡には人間味がある。そしてその人間味は、迷い、という若者に特有のものと一般的には受け止められがちなニュアンスとは裏腹に、円熟した人からこそ醸し出されるであろう、それ、であるように思えて仕方がないのである。それ故、そのコントラストは主人公が少年の時に一層目立つのだと思うのだ。 たとえば、それは物語の展開する速度が比較的ゆっくりであることの効果なのかとも考えてみる。ああ蚊が飛んでいるなあ、ああ近くへきたなあ、ああ腕にとまったなあ、と順繰りに(そして丁寧に)物語は描写され、やがて、ああかゆいなあ、という心情に至る。こうして書かかれたものが年寄りの物語だと言われれば、まあそんなものかなと思うのだろうけれど、それが少年の物語だと言われた時に感じるようなすわり心地の悪さが、この本の物語にはあるのである。 その速度の遅さは、ひょっとすると時代と結びついてしまっているものなのだろうか。ふと現代人である自分は訝しく思ってみる。だとすると、時代を隔てた少年の苦悩は理解しえないものなのだろうか、と。しかし、主人公の少年の苦悩は切実であり、こちら側の勝手な違和感を易々と凌駕して、迫ってくる。その指の、その体の震えは、本物だ。 何でもないなあと思ってしまうこと、違和感があるなあと思ってしまうこと。それは全て読む側の思い込みなんだということがしんしんと理解される。そんな勝手な思い込みの壁を、いともたやすく突き抜けて、この本の主人公たちは終わることのない逡巡を続ける。
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