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堺利彦伝 中公文庫
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 中央公論新社 |
発売年月日 | 2010/10/25 |
JAN | 9784122053878 |
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堺利彦伝
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商品レビュー
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本書は、「小説家」「平民社創設者」「社会主義者で投獄された第一号」「女性解放運動に尽くしたフェニミスト」「売文社社長」「日本共産党創立に参加したが、合法的な無産政党組織化の方にに尽力」した堺利彦が、1925年改造社から出した「自伝」である。上の経歴は、この本では全く出てこない。 ...
本書は、「小説家」「平民社創設者」「社会主義者で投獄された第一号」「女性解放運動に尽くしたフェニミスト」「売文社社長」「日本共産党創立に参加したが、合法的な無産政党組織化の方にに尽力」した堺利彦が、1925年改造社から出した「自伝」である。上の経歴は、この本では全く出てこない。 幾つか意外に思ったこと。 ひとつ、大正時代の文章ではあるが、ほとんど現代文学と言っていいほどの「散文」形式の自伝だった。これなら、文字が分かる労働者階級は難なく読めただろう。 ひとつ、残念ながらここで書かれたのは、社会主義者になる直前までの堺利彦ではあるが、それだからこそ、明治はじめのいち地方都市の近代日本の青年の、「坂の上の雲」的立身出世主義の挫折と知識人の再生が生き生きと描かれていること。 ひとつ、幼少期の「小士族の日常生活」や「正月と節分」「士族の商法」の章その他豊津時代の記述は、立派な民俗報告になっている。堺利彦と交流のあった山川菊栄「武家の女性」が柳田国男の薫陶を受けて、そのまま民俗誌になっていたのと同じように、堺利彦も柳田国男と交流があったのだろうか。 堺利彦は、世の若者の常で、もとは神童だったのに東京に遊学すると「立派な放蕩者」になる。福岡豊津に帰り、それから一家揃い大阪天王寺に移る。教員生活を暫くして新聞記者時代に移る。小説を書いたり、随筆を書いたり、雑報を書いたり、たまに論文を書いたり。上京し、妻を得て、男の子を得、少し略するが萬朝報記者になったところで、自伝が終わる。 最後に彼は書く「君の後半生における萬朝報時代は、即ち右の如き、士族出身の、半独学の、中流知識階級としての君が、個人的立身出世思想から中流階級本位の社会改良主義に移り、さらにそれから一転して社会主義者になるまでの4年間の過渡期時代である」いやあ、さすが文章家!見事にまとめている。 解説は「パンとペン 社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い」を書いた、ノンフィクション作家の黒岩比佐子。おそらくこの本の影響があって、2010年に改版新版が出たのだろう。見事な解説だった。また、この本を受けて、柳広司の「パンとペンの事件簿」という小説が生まれたのだろうと思う。自伝は、全然社会主義者堺利彦を語ってはないが、しかし、明治の青年を生き生きと語っていた。小説で、荒畑寒村がいい意味で堺利彦を「たぬきだ」と言っていたのもムベなるかな。結局彼の社会主義理論は読めなかったが、基本彼は「背を伸ばした善良なる社会改良主義者」なんだと私は推測する。
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今この時期に、堺利彦の伝記を新刊の文庫本で読むことになるとは思ってもみませんでした。 堺利彦といえば、あの日本で最初の探偵小説『無惨』を書いたり、『鉄仮面』や『巌窟王』など数々の外国小説を翻案(原作を直訳ではなく意訳・創作する方法)して私たちが幻想・怪奇・冒険小説を読めるように...
今この時期に、堺利彦の伝記を新刊の文庫本で読むことになるとは思ってもみませんでした。 堺利彦といえば、あの日本で最初の探偵小説『無惨』を書いたり、『鉄仮面』や『巌窟王』など数々の外国小説を翻案(原作を直訳ではなく意訳・創作する方法)して私たちが幻想・怪奇・冒険小説を読めるように種をまいてくれた黒岩涙香が創刊した日刊新聞『萬朝報(よろずちょうほう)』の記者として活躍し、たまたま大逆事件より早く逮捕されて難を逃れた後は、カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスらの『共産党宣言』の日本で最初の翻訳をはじめ、社会主義思想やロシア革命史や欧米文学の紹介のためなどに数多くの本を翻訳出版しただけでなく、日本社会党や日本共産党の結成に加わり、実際にも東京市会議員に当選して政治家になったこともあり、またエスペラント運動にも尽力した人物だったことは知る人ぞ知るところですが、どうして今なぜ堺利彦なのでしょうか。 そういえば、今でも実利的教養や教訓的人生論として、明治時代に書かれた福澤諭吉の『学問のすすめ』や『福翁百話』、勝海舟の『氷川清話』や西郷隆盛の『南洲遺訓』などを読む人もいるようですが、失礼ながら、田中正造や中江兆民ならともかく、わざわざ堺利彦のそれも若い時代の自叙伝を読む人がはたしているのだろうかと思います。 どうやら、それはこの本の中で解説を書いている黒岩比左子の新しいアプローチによる再評価というものが原因しているらしいです。 何年かぶりの再読ですが、たしかに、いままで気づかなかったユーモアあふれる筆致で、私が知っている大杉栄や幸徳秋水や石川三四郎など、同時代の他の誰よりも読ませる書き方というものを感じます。 本書の刊行と同じ時期に上梓された黒岩比左子著『パンとペン・・社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い』によって、彼女は今まで誰も知らなかった堺利彦を発見して私たちに教えてくれたのです。 今までのあまり目だたない社会主義者としての存在だった堺利彦を、職につけず困っていた主義者たちに売文社という媒体を使って文章を書くという仕事を世話したり、その先駆として彼自らが書いたその才能は夏目漱石や森鴎外に注目され、黒岩涙香のむこうを張る貪欲さで膨大な翻訳本を、思想書だけでなく数々の名作小説を私たちに届けてくれたりという目の覚めるような活躍をした人として鮮やかに登場させてくれたのです。
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