ヒルダよ眠れ ハヤカワ・ミステリ文庫

アンドリュウ・ガーヴ(著者), 福島正実(著者)

• 販売会社／発売会社: 早川書房
• 発売年月日: 1991/09/30
• JAN: 9784150733513

商品レビュー

2021/06/03

「不穏な眠り」に出ていた「遠い砂」と同じ作者だったので。

ガスオーブンで自殺したのを発見された女性。
社交的ではなかったが、道徳心高く、
静かに暮らす妻であり母であったと思われたが、
殺人だったと判明し、夫が犯人として逮捕される。

ドイツから一時帰国した夫の友人が、
容疑を晴らそうと調査をはじめると、
次第に被害者の人柄が明らかになり…。

なんといっても、印象的なのは被害者自身だろう。
冒頭で亡くなっているので周囲の証言だけで構成されていくのだが、
絶対に著者の身近にモデルがいるよね、
と決めつけたくなるぐらい、リアリティがある。
一言で言えば、嫌な女。
とくに娘との親子関係は現代でも同じだ。

あとは、ようやく犯人の自白書をとって、
事件解決かと思いきや、
突然の警部の訪問が引き起こした騒ぎも
印象的だった。

それと、
探偵役の友人と事件で知り合った女性が、
ほんのりハッピーエンドなのも。

2015/05/24

ジョージ・ランバートが帰宅すると妻のヒルダがオーブンに頭を入れて死んでいた。部屋中にガスが充満しており自殺かと思われたが、警察の捜査の結果他殺であることがわかった。ジョージは警察の尋問に対して仕事で遅くなったと嘘をついた。実際には娘が入院している精神病院の看護婦であるルーシイ・グラントという愛人とあっていた。犯行時のアリバイがなく嘘をついたこと、また、ガスの元栓に指紋が残っていたことなどからジョージは妻殺しの容疑者として逮捕された。

ジョージの戦友であり、命を助けられたマックス・イースターブルックは海外の仕事の休暇でロンドンに帰ってきた。二年ぶりにジョージを尋ねると殺人容疑で逮捕されたと聞いた。ジョージの無実を信じるマックスは真犯人を探すためにヒルダの過去の調査を開始した。ジョージ自身は否定したが、家政婦のビグズ夫人、娘のジェーン、ジェーンの主治医チャロナー、ヒルダの弟アンドリュウ・ホワイトとその妻ローズはヒルダのことを嫌っていた。”ヒルダほど人を心の底から怒らせる人間はいない”と。

ジェーンの話からヒルダがステファニーという女に電話をしていることがわかり、マックスは彼女を探しだして会うことができた。マックスはひと目でステファニーに好意を持った。ステファニーの話から彼女の許嫁の画家アレクとヒルダが事件の一ヶ月ほど前に偶然出会い、昔の知り合いであることがわかった。その後ヒルダはステファニーのもとを訪ね、彼女とアレクの仲を暗にさこうと画策した。

アレクに会って話をすると、彼の言動はだいぶ不安定だと気付いた。アレクは結婚前のヒルダと恋に落ちたが、その後わかれ、先日会うまでは一度も会ったこともなかったといった。ヒルダがステファニーに会ったのを知ったアレクは、ステファニーの話ではヒルダに対して大変な怒りようだったが、アレク本人はさほど気にしていないという話だった。また、犯行時のアリバイについても話をしたが、のちに嘘とわかりアリバイがないことがわかった。二度目に会いに行ったとき、鍵をかけずに出かけており、部屋の中で待っているとスケッチブックを見つけた。中を見ているとヒルダのスケッチがあり、その髪の毛にウェーブがかかっていた。ヒルダの髪はずっとストレートだったが、犯行当日にウェーブをかけたことがわかっていた。このスケッチがアレクが犯行当日にヒルダと会っていた証拠だとして、ヒルダ殺しはアレクの犯行だと確信した。

アレクの犯行だとするとステファニーから許嫁を奪うことになる、また、このままではジョージが殺人の罪で死刑になるかもしれない。この板ばさみに悩んだマックスだが、スケッチブックを警察に持ち込む前にステファニーとともにアレクの話を聞きに行くことにした。アレクはスケッチブックだけでは犯行の証拠にはならないというが、罪の意識や無実のジョージが死刑になるとういう罪悪感からマックスに取引を持ちかける。アレクがヒルダ殺しをみとめ告白書を作りサインする。そのかわりマックスは告白書を警察に提出するのを一週間待つということにした。

告白書にサインしたあとアレクは空港へ向かった。しばらくしてアレクの家にロンドン警視庁のヘインズ警部が訪ねてきた。ステファニーはマックスがアレクを裏切って警察を呼んだと勘違いしマックスを責めた。しかし、ヘインズ警部はヒルダがアレクと出会ったときに買った絵からアレクの住所を割り出して話を聞きに来ただけだった。異常を感じたヘインズ警部は告白書を見つけそれを読み、アレクの捜索を指示した。アレクは空港に向かう途中事故に会い、即死したとの報告があった。目撃者の証言の結果、自殺だとわかった。

アレクの告白書の結果、ジョージは無罪となり釈放された。マックスは休暇を終えドイツへ帰る空港で見送りに来るというジョージとルーシイを待っていた。しかし、そこに現れたのはステファニーだった。マックスがアレクを裏切ったのは誤解だとわかり見送りに来たのだった。