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荷風好日
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荷風好日

川本三郎(著者)

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荷風好日

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商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 岩波書店
発売年月日 2002/02/27
JAN 9784000224260

荷風好日

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2013/03/11

世を挙げてのワールドカップ騒ぎに紛れて、有事法制などという店晒しの法案をまたぞろ蔵から出してくる政府の巫山戯たやり方には腹を立てるのも莫迦らしく、相手にしたくなくなるのだが、こちらのそんな反応も知った上での手口であることも分かっているから始末が悪い。竹林の七賢人ではないが、俗世間...

世を挙げてのワールドカップ騒ぎに紛れて、有事法制などという店晒しの法案をまたぞろ蔵から出してくる政府の巫山戯たやり方には腹を立てるのも莫迦らしく、相手にしたくなくなるのだが、こちらのそんな反応も知った上での手口であることも分かっているから始末が悪い。竹林の七賢人ではないが、俗世間に背を向けて自分だけの世界に好きな本や音楽とともに隠棲しようと思っていたとき、この本に出会った。 世間の風向きが自分の思いと相容れぬ時、人のとる道はいくつかある。世の中の方を自分に合わせようとして動くというのが一つ。それとは逆に自分の方を世の中に合わせるというのもある。前者は困難な道であり後者は安易である。しかし、ここに第三の道がある。世間と縁を切ることで、自分の思いを守るという「世捨て人」の生き方である。荷風の採ったのはこの道であった。 生きていくには生活の場というものがいる。世間と折り合いをつけぬ以上、自分の属する世界と無縁の単独者としての生き方を見つける必要があった。偏奇館を根城にした下町や郊外の散策、さらには玉の井などの私娼窟探訪が、荷風が見つけた生活である。自分を知らぬ人々の中を彷徨い、やがて帰宅して日記を付ける。いわば「生活の虚構化」である。そうした生活の中から生まれたのが『断腸亭日乗』や『日和下駄』であった。 川本三郎は、荷風のこうした生き方を「やつし」と表現している。つまり真性の隠居ではなく一種の落剥趣味だというのだ。現に金利生活者としての荷風は己の資産運用にかけては細心の注意をはらっている。世捨て人は仮の姿であり、親の恒産の上に胡座をかいた高等遊民というのが真の姿である。それかあらぬか、空襲で焼け出され、寄寓先を転々とする中で、荷風は自分を見失い、作品の質は低下を辿る。虚構であるはずの身寄りのない孤独な老人が、自分の真の姿であることを知ったとき、反骨も倨傲も音立てて崩れていく。 金で買える女は後腐れがなかろうし、見て過ぎる路地裏の生活にはノスタルジックな詩情に溢れてもいよう。川本は荷風を「見る人」と位置づけているが、自分の姿をさらすことなく一方的に見ることのできる立場にある者をフーコーは「権力」と呼んだ。寄寓先で私生活を守ることもできない荷風は見られる側、つまり権力を持たぬ一般人の位置に堕ちることで、力を失ってしまう。 それを世間と言おうが世界と言おうが、人間は自分を取り巻く社会と断絶して存在できるものではない。我一人超俗を気取って、孤高の生活を送ろうなどというのは、世間知らずと言われても仕方があるまい。自分と世界は繋がっている。世界の嫌な部分は自分の嫌な部分である。自分を嫌になりたくなければ、否が応でも世界と関わっていかなければならない。好きな本を読み、好きな音楽を聴くという、ただそれだけのために払わなければならない犠牲というものがあるのだ。

Posted by ブクログ

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