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おなあちゃん 三月十日を忘れない
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 冨山房インターナショナル |
発売年月日 | 2009/03/10 |
JAN | 9784902385694 |
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おなあちゃん
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中畝治子さんが装画・イラストを担当したという本。「二人展」の会場にも本を積んであったのに、私はうっかりしていて最終日にもう一度行くまで、それは天音堂の関係の本なのだと思っていた。送りかえす絵や本の梱包を手伝っていて、初めて気づく。 図書館に所蔵があったので、借りてきて読んでみ...
中畝治子さんが装画・イラストを担当したという本。「二人展」の会場にも本を積んであったのに、私はうっかりしていて最終日にもう一度行くまで、それは天音堂の関係の本なのだと思っていた。送りかえす絵や本の梱包を手伝っていて、初めて気づく。 図書館に所蔵があったので、借りてきて読んでみた。 東京大空襲を経験した阿部攝子さんの遺稿をもとに、当時14歳だった「せっちゃん」と「おなあちゃん」の日々を再現したものがたり。 「おなあちゃん」の本名は直吉。男で独り身で、40代なかばだったろうかというおなあちゃんは、すらりとした体型で、いつも女のなりをして和服を着ながし、薄化粧をしてなかなかのおしゃれ、声をかけると「はーい」とかわいい声で返事し、みごとな女だったという。 餅菓子屋だったせっちゃん家の店先を、誰に頼まれるわけでもなくよく掃除していたおなあちゃん。惣菜や店に出す菓子の端切れなどをおなあちゃんに渡す母が、せっちゃんはうらめしかった。直吉がきらい、女のような男の直吉ががまんならなかったというせっちゃん。 男3人、女3人の6人きょうだいの末っ子だったせっちゃんの3人の兄は次々と出征し、東京大空襲で父と次姉とを失って、せっちゃんは母と上の姉と3人になった。助かった姉も骨まで出るようなひどい火傷を負い、病院に入った。つきそいは1人だけにしてくれと病院に言われ、母は、避難所で一緒になったおなあちゃんに「娘をよろしくお願いします」と頭を下げた。 避難先になっていた小学校の講堂も閉鎖になり、おなあちゃんと一緒にせっちゃんは寝場所を探して、上野の寺、それから上野駅の地下道にうつった。3月から7月まで、おなあちゃんに探してもらった食べるものや着るものでせっちゃんは生きのびてきた。 せっちゃんが、女のような男であったおなあちゃんを嫌っていたように、せっちゃんの親戚のおじさんも、おなあちゃんの話に顔をしかめる人だった。おじさんがせっちゃんを探しにきたとき、おなあちゃんは食べものを探しに行ったのか、出ていって不在だった。それなら今のうちにおじさん家へ行こうと手を引かれて、せっちゃんは「ありがとう」も「さよなら」も言わずに地下道を離れた。 ▼地下道に寝起きしていることは、母にさえあまり知られたくないことだった。恥ずかしいとずっと思っていた。そこからやっと出てこられたのに、目に浮かぶのは地下道でのおなあちゃんのことばかりだった。 ほうぼう歩いてやっと手に入れてくれたおにぎりのこと。ほっとしてわたしをみるときの、やさしい目。「せっちゃん」と呼ぶ声。 いつでもおなあちゃんの「おはよう」の声で一日が始まり、「おやすみ」の声で終わった。(p.114) せっちゃんは、ずっとおなあちゃんのことを忘れようとしていた。おなあちゃんのことを好ましく思わないおじたちの世話になって暮らしている身で、ずっと忘れようとしていた。 14歳の空襲のときから60年以上たって、区の文章教室に通い、家族にも詳しくは話さなかったおなあちゃんとの出会いと別れのことを、せっちゃんは「生き抜いてきた自分史」として手記に綴った。それがこの本のもとになった遺稿らしい。 ずっと言えなかった、おなあちゃんへの「ごめんなさい」と「ありがとう」。
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