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ジョイスと中世文化 『フィネガンズ・ウェイク』をめぐる旅
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ジョイスと中世文化 『フィネガンズ・ウェイク』をめぐる旅

宮田恭子【著】

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ジョイスと中世文化 『フィネガンズ・ウェイク』をめぐる旅

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商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 みすず書房
発売年月日 2009/02/20
JAN 9784622074540

ジョイスと中世文化

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2013/03/06
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一冊の本が呼び水となって、新たな読書の水脈を掘り当てることがある。この本がまさにそれである。副題に「フィネガンズ・ウェイク」をめぐる旅、とある。ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』といえば、そのあまりに実験的な作風から、一部には失敗作と評価する向きもある問題作である。柳瀬尚紀氏による個人全訳は、画期的な訳業と評価される一方で、その凝りに凝った翻訳は、読者を容易に寄せつけない。恥ずかしながら評者も途中で投げ出した口である。 その難物『フィネガンズ・ウェイク』をかみくだいて解説してくれる類の本だろうと見当をつけて読みはじめたのだったが、どうも様子がちがう。どうやら、ここでいう「旅」は、比喩でもなんでもなく、本当の旅のことらしい。著者が自ら撮影したゴシック建築や教会のアーチに施された浮彫彫刻などの図版を引きながら、『フィネガンズ・ウェイク』に登場する「アダムとイブ教会」が、聖フランチェスコに始まるフランシスコ会の教会であることから、アッシジに飛んでジオットを語り、さらにパドヴァに赴いては聖アントニウスに触れるといった具合。 さながら中世美術の解説書の観を呈する。とはいえ、それなら本書にも度々登場するエミール・マールの『ゴシックの図像学』のような本がすでにある。それなのに、なぜ今この本が書かれねばならなかったかといえば、ひとえにジョイスの中世文化に寄せる関心が『フィネガンズ・ウェイク』執筆と深いところで結びついているからにほかならない。ジョイスがパリに住んでいた頃、友人にこう語っている。 「古典時代の建物は過度に単純で神秘性に欠けるといつも思う。ぼくの考えるところ、今日の思想で最も興味深いことの一つは中世への回帰です。…アイルランドに関していちばん面白いところは、われわれは中世人で、ダブリンはいまだに中世の都市だということです。…ものを書くときは、古典様式の固定したムードとは反対に、ムードと現在の衝動に動かされるままに、果てしなく変化する外面を創造しなければならない。「進行中の作品」はそれです。大事なのは何を書くかではなく、いかに書くかということ。…避けるべきは、硬直した構造と情緒的な制約を持つ古典です。中世的なものには古典的なものよりも情緒的な豊穣さがあります。」 「進行中の作品」とは『フィネガンズ・ウェイク』の仮の名。これによると、ジョイスがいかに中世的なものを自分の「進行中の作品」に重ね合わせていたかがよく分かる。著者は、この言葉を手がかりに、実地検分に赴いたというわけである。ただ、実際に書かれた内容はといえば、ジョイスとの関連よりも中世美術の図像学的解説の部分がふくらんでしまったという観は免れない。 ただ、そうした解説の間に挿まれる形で、著者の訳による『フィネガンズ・ウェイク』の文章が引用されるのだが、これが実によく分かるのだ。もともと多言語的地口によって綴られている『フィネガンズ・ウェイク』である。一つの訳語に定めてしまっては作者の意図に反するというお叱りもあろうが、そこは解説の中で詳しく説明されている。 期待して手にとった柳瀬訳で挫折してしまった者にとっては、曲がりなりにも『フィネガンズ・ウェイク』の世界に入ることができたという喜びをなんと言い表したらいいだろう。『ジョイスと中世文化』は、唯に『フィネガンズ・ウェイク』と中世文化についての関係を解説してくれる本というだけでなく、『フィネガンズ・ウェイク』を読めずにいた読者に『フィネガンズ・ウェイク』への橋渡しをしてくれる手引き書でもある。 実は、すでに著者による『抄訳フィネガンズ・ウェイク』という本が他社から出版されている。早速取り寄せたところ、本文に引用された部分同様、読みやすい訳文となっている。丸谷他訳『ユリシーズ』と同じ体裁で、脚注、解説が附されている。抄訳といいながら、いわゆる翻案ではなく冒頭と終末部分は完全に翻訳し、途中を割愛する部分訳であるのもありがたい。割愛されている部分については、柳瀬訳や原書にあたって確かめることもできる。これを機会に柳瀬訳に再挑戦してみようかという気にもなる。 『フィネガンズ・ウェイク』に門前払いをくわされた人に格好の入門書としてお薦めする。また、中世文化やゴシック芸術に興味のある人なら、ジョイスの愛読者でなくとも充分に楽しむことができることを申し添えておく。

Posted by ブクログ

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