いのちの分水嶺 その時、運命が決まった 集英社文庫

石川恭三【著】

• 販売会社／発売会社: 集英社
• 発売年月日: 2008/12/15
• JAN: 9784087463866

商品レビュー

2024/12/11

冒頭から個人的な話で恐縮です。
高校3年生の11月に特発性自然気胸になった。なったのがすぐわかったのは、高1の時も反対側の右肺をやった経験があったから。ただ最初の時は、7日程の入院でベッドで寝ているだけで自然治癒したが、2回目は治らないので胸に五寸釘の様な管を気胸と肺の間に入れ、気圧差で破れた肺を拡張させ治癒するのを待つ。ところが、1ヶ月以上経ってもくっつかない。その間、管をいれっぱなしにすると皮膚が壊死するらしく、10日に一度場所を変えて管を打ち直す(今も左胸には4箇所くらい傷跡が残っている)。そしてその年末、管が心臓の方にズレて急に苦しくなり、部分麻酔で緊急手術をすることに。手術中突然、息をしても肺に空気が溜まらない状態が1分近く続き、まじで死ぬ思いを経験。年明け、大学受験時期も迫る中、治せない総合病院に見切りをつけ、急遽専門医へ転院。
その時に出会ったのが、著者と同じ慶應大学の医学部を卒業した斎藤先生。昼間休みにテニスをするハイカラな慶應ボーイ先生は、転院初日に明後日手術して完治させますと親と私に宣言。前の病院で精神的にも体力的にも消耗していた身には涙が出るほど心強い言葉でした。そして手術は成功するも背中には18針の傷跡が。術後は、「痛い、痛い」と言っている自分の声で目覚める。とにかく息をする度に痛い状況が続き、抜糸するまでは座薬なしではいられない。隣の病室からもおじさんの「痛い」という声がずっと聞こえ、それは脳腫瘍の手術をした患者さんのようでしたが、戦友の様な存在だったけど3日後には静かに(退院後聞くと、彼は亡くなったそうです)。
抜糸翌日からは腕を動かさないと手が上がらなくなると言われ、痛みに堪えながらリハビリ開始。そして、抜糸後1週間で退院できました。おかげで、2月の私立大学受験に間に合いました。
さて、個人的経験を長々と書いたのは、私にとって、転院が命の分水嶺だったと思われるから。(残念ながら、隣の患者さんにとってはその病院でも駄目だったわけですが…)
病気の際の病院選び、担当医の巡り合わせには運不運がありそうです。例えば医者の場合、執刀経験の少ない医者なら、彼らにとって患者はある意味技量向上の為の実験台でしょう。もちろん、その経験の積み重ねなしでは名医にもなれないわけだが、できることなら、自分にはベテラン医師が担当して欲しいと思うのが人情。
本書でも、著者のインターン時代の危なっかしい経験談などを含め10例の生死に直結する話が披露されています。

2020/11/11

P252
まさに石橋を叩いて渡るような人でも落とし穴に落ちることもあるが、その割合は少ないしダメージも総じて軽いことが多い。
人生の価値を何処に置くかによって人それぞれの生き方が異なるのは当然だが、多くの人の生の終焉を見てきた私には石橋を叩いて渡ってでも長生きした方が輝いて見えるのである。

長生きばかりがいいことではないが、何処に分水嶺があるのかわからない。
だからこと日々、自分のことに注意を払わなければいけないのだろう。

いいお医者さんだと思う。もう今は少ないタイプの昔ながらの先生だと感じた。