橘傳来記 山田風太郎初期作品集

山田風太郎【著】

• 販売会社／発売会社: 出版芸術社
• 発売年月日: 2008/11/25
• JAN: 9784882933618

商品レビュー

2012/04/10

読み終わってから年齢に驚きました。なんちゅう不敵で生意気で欲望の旺盛ながきだろうかと。視点の移り変わりが急だったり、散漫な文章ではあるんだけど、エネルギーが迸っていて、私は表題作を読んだあとちょっとの間魂消ておりました。あの虫けらの足に転がされた非時香菓を「－我が君」と抱くシーンの美しさに久しぶりに胸打たれた。本当に果物一塊に十年の苦闘が帝への愛慕が、田道間守の孤独が、寄る辺なき哀切が圧縮されてそこに転がされていたのです。むしろ帝。そりゃあ胸に抱きしめたくなるわ。（果物は健気なるものの演出の憑代として非常に力があると思う）そして畏れ多くも帝を利用しようとしていた自分の不忠に愕然とし胸の憑き物が落ちる、一番素朴な姿に戻る。だからなんのてらいもなく「強くなれよ」と言える。俗人にはその純真さがこの世のものでないように思えるのでよろける。ヨロリ。　　受験ものと軍国ものはしつようだったのですが、そこここに反感がにじみ出ているような気がします。「火事」も好きです。あとがきメモ：「春獄久」「さよなら、不遜」子供だましのアイディアをとっておいても書けなくなる。私は印象的な場面のことばかり書きがちですが、そこに至るまでの過程も几帳面に描ききっているので得られる感動なのであります。