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文学的なジャーナル Journal Imagined
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文学的なジャーナル Journal Imagined

岡崎祥久【著】

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文学的なジャーナル Journal Imagined

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商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 草思社
発売年月日 2008/10/01
JAN 9784794216694

文学的なジャーナル

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2011/12/20

『文学的ジャーナル』は実は“数学的”である。  『文学的ジャーナル』は、芥川賞候補にも名前の挙がる著者が、20年にわたって書き散らしてきたメモをもとに、改めて“日記”を記していくという趣向の作品だ。ただし、記述される時系列はばらばら。2001年1月21日の隣に19913月23日が...

『文学的ジャーナル』は実は“数学的”である。  『文学的ジャーナル』は、芥川賞候補にも名前の挙がる著者が、20年にわたって書き散らしてきたメモをもとに、改めて“日記”を記していくという趣向の作品だ。ただし、記述される時系列はばらばら。2001年1月21日の隣に19913月23日が並んだかと思えば、2006年の出来事が連続して記される。  本作では、語り手が限りなく著者に近い存在として描かれているが、それをどこまで信じるかはさておき、ここでちょっと別の観点から『文学的ジャーナル』を読んでみたい。  まずドライブのことを考えてみよう。自動車の速度は、その時々に応じて早くなったり遅くなったりする。スピードメーターの50kmという数字は、「このままの速度でいけば1時間後には50km先に到着している」という、ある瞬間の未来像を指し示したものだ。けれども自動車が1時間もぴたりと同じ速度で走り続け、ある種の未来像がそのまま現実になることはない。自動車の速度は、渋滞にはまって20kmになったり、高速道路に入って120kmになったりする。数学でいう「微分」とは、このような運動体のある瞬間の速度(正確には変化率)を求めるための操作を指す。  そして『文学的ジャーナル』の各日の記述は、変化し続けるスピードメーターを、いちいち記録しているようなものだ。その点で『文学的ジャーナル』の記述は、その瞬間での人生を微分した結果であるといえる。そして「微分」ということは戦術の通り、「このままいけば~」という、「ある瞬間での未来予測」を常に孕んでいることでもある。  たとえば1998年9月1日。図書館のエレベーターで美しい女を見かけた“私”は、「この女となら何もしらないまま結婚してみてもいい」などと内心思っていたりする。  さらに“私”は、この日記の「微分的性質」に意識的だ。だから2005年1月14日には次のように記す。 「もし結婚をせずに一人でいたら、私の暮らしはどんなふうだったろうか? と思う。ことによると――“もし結婚して一人じゃなかったら、私の暮らしはどんなふうだったろうか?”などと夢想していたかもしれない。」  そして、この微分的に記述された『文学的ジャーナル』を読むということは、実は「積分的」行為なのである。  積分とは「変化率を続けた結果」を求める計算のこと。つまり、ドライブでいうならば最終的な移動距離こそが、積分の結果に当たる。未来を含んでいた微分に対し、変化の結果である積分は、過去そのものということができる。読者は微分された人生を一つ一つ拾い集め、“積分すること”で、語り手の人生を脳内で直線的に再構築していく。   「微分」の中に孕まれていた「可能性の未来」。それを読者は読むという行為を通じて、「積分」し、「確定した過去」へと変質させていくのである。これを読んだ時、読者は自分の人生もまた“微分”したり“積分”せずにはおれないだろう。  書き手による「微分」と読者による「積分」。この微積分による“数学的”往復運動こそが、『文学的ジャーナル』を読むときの、おもしろさの一つであることは間違いない。

Posted by ブクログ