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青梅雨 新潮文庫
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 新潮社 |
発売年月日 | 1977/09/01 |
JAN | 9784101075013 |
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青梅雨
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商品レビュー
3.7
19件のお客様レビュー
文学とは言葉であるということについて、ゆるぎないしんねんをもって出発した作家は、とりわけ彼の同時代の作家のなかでは少ない
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永井龍男は文藝春秋社の要職にあった 戦争の終わったあと辞職し、新聞など作っていたが GHQの公職追放を受けて専業作家に転身した たぶんその時期に 家父長としてのアイデンティティクライシスを受けたんではないか そういう感覚を引きずった印象が強い 「狐」 終戦直後、生活に困窮する家...
永井龍男は文藝春秋社の要職にあった 戦争の終わったあと辞職し、新聞など作っていたが GHQの公職追放を受けて専業作家に転身した たぶんその時期に 家父長としてのアイデンティティクライシスを受けたんではないか そういう感覚を引きずった印象が強い 「狐」 終戦直後、生活に困窮する家族 自宅の屋敷をなんとかカネにしようとするが その方法をめぐって夫婦喧嘩に発展し 妻が実家に帰ってしまう 亭主はあくまで被害者づら 最後はその妻を、人を騙す狐になぞらえている ひでえなあ 「そばやまで」 すったもんだあって 自宅の近くに仕事場を確保した男 近所に住む美人の人妻が自殺未遂をやった噂を耳にする それだけの話だが 「枯芝」 妻を捨てて若い愛人と再婚したものの すぐ倦怠期が訪れる 自分というものが2人いて だからこそ二股をかけていたわけだが 片方に決めた今じゃ腑抜けの自分になってしまっている 「名刺」 清濁併せ呑むことで人は関係を築いてゆく みんなが赤信号を渡るなら 怖くてもそれにつき合わなければならないのだ それが嫌なら 疚しい心もひとりで抱え込んでいくしかない 「電報」 電報というのは電電公社…今のNTTがやってるサービス 文字起こしした電文を人力配達するもので 通信端末のないところに緊急連絡をとる場合など使う むかしは船や列車の中にも届いたらしい さて、この小説は 列車の中にむかし弄んで捨てた女を見かけた男が 車掌を騙して彼女あての電報を覗き見るという まあろくでもない話です 「私の眼」 とある芸能人が死んで、その通夜の席に 奇妙なイタズラを仕掛ける者があらわれた イタズラといっても当の本人は真剣で つまり狂っているのだが 「快晴」 とある芸能人の葬儀も終わるころ 前日の狂人がふたたび姿をあらわす 個人の死によって変質したはずの世界は 相も変わらず日常を続けており みんな本当にそれを納得しているのだろうか 「灯」 根回しに根回しを重ね、意思統一しておきながら いざ投票となったとき 自分だけ反対票を入れずにはいられない そういう謎の心理がある 民主主義社会では トップだけが特別ということにはならないからな むろん逆に 個人主義社会では誰もが特別でありうるわけだ 「蜜柑」 体よく捨てられると知った女は 捨てる男をうらやむ 捨てられるのではなく捨てたいのだ 大量の蜜柑を道端で思いきりばらまくように 「一個」 定年退職を目前にして再就職活動を行うが 上手くいかず、屈辱を受ける老人 電車のなか、悲しさと悔しさを紛らわすべく 本当に愚にもつかない妄想を重ね しまいには帰宅後、自殺衝動に駆られてしまう あくまで家父長としての自己イメージを守るためには 自殺によって物語を完結させねばならないのだ 何様のつもりだよって感じだが 昭和と令和じゃモノの考え方が違うんですよね 「しりとりあそび」 主婦たちのあいだにある暗黙の階級意識 高台に住む者は下町よりも偉く 自立した者はただの主婦よりも偉い 基本的には亭主の存在に依存した価値観なのであるが 思いやりより狡賢さという品のなさでもって 自立した気になる人もいる 「冬の日」 建前だらけの世の中じゃ息がつまる 蓋をして覆い隠した「臭いもの」を世間にぶちまけてやりたい そんな人々の思いに答えて登場したのが たとえば石原慎太郎だったりした しかし世間がそう傾いてくると 文句の1つも言いたくなるのが老害ってやつである 真実の暴露で人を傷つけてよいのかと ことなかれ主義で 臭いものに厳重な蓋をすることこそ善意ではないのかと 蓋のなかではやがて 手のつけられないモンスターが育つかもしれないのに 「青梅雨」 一家心中の顛末 未練とか恨みがましい泣き言は一切なく むしろせいせいした明るさすら感じられる 物語中の人物として幕を下ろそうとする自意識があるんだろう どことなく森鴎外の「堺事件」を思わせもする 物語を担保するのは家父長の存在だ しかし悲しいことに 下卑た好奇心で曇った世間の目じゃそれがわからなかった
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永井氏の作品は初めて。 50年以上前に出版された短編集ですが、十分に楽しめます。 こんなに美しい文体に出会ったことがあっただろうか、というのがまず第一の感想。 そして、極限まで削られた描写に読み手の想像力が試される気がしました。 全ては描かれていないのに、登場人物の表情や彼らが...
永井氏の作品は初めて。 50年以上前に出版された短編集ですが、十分に楽しめます。 こんなに美しい文体に出会ったことがあっただろうか、というのがまず第一の感想。 そして、極限まで削られた描写に読み手の想像力が試される気がしました。 全ては描かれていないのに、登場人物の表情や彼らが目にしている情景が色濃く脳裡に浮かぶー。 素晴らしい文章力だし、解説の言葉を借りれば「文学の醍醐味」を教えてくれた一冊でした。 これを機に、少し純文学に興味が出そうです。 2020年31冊目。
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