イスラーム原理主義の「道しるべ」 発禁“アルカイダの教本"全訳+解説

サイイドクトゥブ【著】, 岡島稔, 座喜純【訳・解説】

• 販売会社／発売会社: 第三書館
• 発売年月日: 2008/08/15
• JAN: 9784807408153

商品レビュー

2015/07/15

［「彼ら」の拠所］いわゆる「イスラーム原理主義」と呼ばれる主張・運動の背骨を形成する書物の一つとして取り上げられる作品。西洋文明の没落を背景にイスラームの卓越性を主張し、現代社会の破棄とアッラーのみへの完全なる帰依を唱えた作品です。著者は、アメリカへの留学を契機として思想的転回を見せたとされるサイイド・クトゥブ。訳及び解説は、カイロへの研修経験がある岡島稔とイスラーム関係に関する著作の出版もされている座喜純。

本書を貫くキーワードをいくつか挙げるとすれば、「普遍性」・「無謬性」・「行動重視性」・「膨張性」・「不変性」・「（特に物質的・肉体的な）現世利益非重視性」といったところになるでしょうか。一般の日本人読者からすれば、そのメッセージの強烈性が際立って仕方ないと思うのですが、この文脈が現在でも感化を及ぼしていることを思うと、彼我の思考の溝の深さに呆然とすらしてしまう思いを覚えます。これを「イスラーム」と呼ぶかは人によって当然意見が分かれると思いますが、少なくともこれを「イスラーム」と呼んで心が動く人が少なからずいることを思えば、読んで損はない作品かと。

同じメッセージを異なる箇所で、ときには異なるテーマに紛れ込ませながら何度も何度も語っていることもあり、比較的シンプルな内容が頭に染み込みやすい構成になっているところも、本書が発刊されてから絶えず読者に困らない理由の一つになっているのではないでしょうか。知的に、そして信仰的にこの考え方にどう対抗していくか、という点がイスラームやそれに地理的にも近い西欧社会の死活的テーマであることは必然的だなと改めて感じました（もちろん「彼ら」にとっては「考え方」ではなく「真実」なので「対抗」もなにもあったもんではないと思うのですが......）。

〜道徳的な人々の社会としてのイスラーム社会は、その特性からして、唯一の文明社会であり、ジャーヒリーヤ社会は、いかなる形態をとろうとも、すべて後進社会である。〜
（注：上記の「ジャーヒリーヤ」は、本書においては、イスラームとは異質、敵対的な信仰、主義主張、文物を意味する文脈で主に使用されている用語です。）

表紙のまがまがしさにぎょっとしますが☆5つ

2014/07/03

現代イスラーム主義の原点、クトゥブの代表的著作。クルアーンを原点とし、イスラーム初期の生活を死守することがムスリムのあるべき姿と定義し、それに立ち戻るジハードをムスリムに求める内容。イスラーム崇高性について、人が人を支配しない平等性を強く打ち出す。科学技術については、クルアーンに反しない限り認められるとし、著者の中では具体例はないが、科学技術の多くは非ムスリム（ジャヒリーヤ）の文化に属するものが多いと言及。ジハードについては、クルアーンを徹底遵守しないムスリムもジャヒリーヤと認定し、ハワーリジュ派やワッハーブ派へのつながりが垣間見られる。後半は、研究者に寄るクトゥブ論が寄稿されており、クトゥブとサダトは、かつてエジプト王国妥当で手を握っておりその後急進化するクトゥブの平等化路線によりクトゥブを圧殺したことや、クトゥブがかつては近代化思想家であり米国留学中に反アラブ思想に触れショックを受けイスラーム主義を始めたことなどは興味深い。