孤高のランナー 円谷幸吉物語

青山一郎【著】

• 販売会社／発売会社: ベースボール・マガジン社
• 発売年月日: 2008/08/09
• JAN: 9784583101057

商品レビュー

2021/02/21

　昭和39年、東京オリンピック国立競技場、すべての観客が振り向いて欲しい」と願った。円谷幸吉、振り向かないでヒートリーに抜かれ3位に。小学校時代、元軍人の父から「今後は絶対後ろを振り向くな」と厳しく指導され、後ろを振り向かない選手に。昭和43年、メキシコオリンピックの年、1月9日、朝霞の自衛隊体育学校の宿舎で自殺。「父上様、母上様、三日とろろ美味しうございまいた」で始まる遺書を残し。この本を読み、自殺にいたる３つの出来事を知り、唖然としました。①結婚式まで決まっていた話を上官が反対し破談に。②結婚を勧めてた畠野コーチを北海道に左遷（コーチとの分離）　③椎間板ヘルニア、アキレス腱、腰と足、手術後も完治せず傷だらけの体。あまりにも切なく哀しい。そして、なんという上官のパワハラ。青山一郎「孤高のランナー　円谷幸吉物語」、2008.8発行。三島由紀夫は強烈な自意識、円谷幸吉は責任感と他者に対する思いやり（自意識の欠如？）で自殺したものと思います。

2013/09/12

　ピンク・ピクルスというフォークデュオの「一人の道」という曲が円谷幸吉選手の悲劇をクールに綴った名曲です。この曲を繰り返しアイポッドで聴き続ける内に、円谷さんのことをもっと知りたくなり、この本を読みました。

　私のように東京五輪どころかメキシコ五輪の年（この1968年に円谷選手は自殺）にも生まれていなかった世代には「悲劇」の部分が語られがちで実際あのような最期は残念ですが、この本に載せられた貴重な当時の写真では家族や練習仲間との笑顔が見ることが出来、朴訥で茶目っ気もある「かけっこが好きな男の子」がそのまま大人になったような青年の「陽」の部分も垣間見れて救われた気分です。自衛隊体育学校の上官のメキシコ五輪まで恋愛禁止（故障でメキシコ五輪出場絶望、婚約破棄～婚約者別人と結婚が自殺の一因なのは確実）ってＡＫＢじゃあるまいし、今ならパワハラって言われるだろうに。遺書にある誰かさんがその張本人なのかな？　姓しか書いてないけど。今なら炎上ものですね。

野口みずきさんがオーバ－ワークで北京五輪出場辞退、今年の復帰レースも練習し過ぎで棄権、公務員ランナー川内優輝さんが（自衛隊と県職員の市民ランナーでかなり境遇は違うけど。時代も違うし）実業団とかと較べて語られたり、陸上業界もプロって柔道とか相撲とかフィギュアスケート並に裏では色々あるのかなあ…と考えてしまった。

君原健二選手視点とか重量挙げ三宅兄弟視点で円谷幸吉さんを語ってみたものも読みたくなってしまった。

2012/10/03

朝日の運動部・元記者で、生前交流もあったという著者による優れた評伝。愛すべき円谷選手の真面目で責任感の強い人柄と、それゆえに自殺にまで追い込まれた心理状況が胸に迫る。もしあの場面で、こうしていたら、こうなっていたら――伝説の英雄として長く生き、良い指導者となっていかもしれない。運命の残酷さが残念でならない。