分別される生命 二〇世紀社会の医療戦略

川越修, 鈴木晃仁【編著】

• 販売会社／発売会社: 法政大学出版局
• 発売年月日: 2008/05/23
• JAN: 9784588672095

商品レビュー

2019/04/12

鈴木明仁先生の講義を受けていたことがあり、この調査もデータ入力のバイトをしていたことがあったので、手にとってみた。
各章、研究者ごとに小論となっているので、全体を通しての結論という形はない。それぞれに面白そうな研究を扱っているが、ひとまず4章のみ。

第4章 治療の社会史的考察
* ひとつの病気について、時代的変化を追った「垂直的な医学史」にたいして、同時代における医療行為の在り方をとらえる「水平的医学史」は研究が少ないように思われる。ある行政区で1年を通して行われた医療関連行為調査により、
* 「滝野川健康調査」は1938年5月～1939年4月の1年間にわたる東京都滝野川区（現在の北区の一部）354世帯2215人への医療記録の調査。
* 多様な療術行為が行われている状況（信仰療法までもが裁判所に医師法に反していないと判断された事例あり）を背景に、医師による治療はもちろん、民間療法から売薬、調剤、針・灸、信仰療法までを広く調査対象としている。
* 世帯年収の代替指標として、家賃の情報を用いてセグメント分析
* 結果、低収入世帯の受診傾向として、通常の症状においては民間療法と売薬で対応し重篤な症状では医師にかかるという行動があった。
逆にいえば、重篤な症状の場合は低収入世帯でも医師による治療をうけており、治療にくわえて車代などの費用も支出している。
「低収入世帯が民間療法のみにたより、医師は死亡診断書を書くだけ」といったイメージは、少なくとも昭和前期の東京では誤り。

治療行為が必ずしも医師の専売ではなく、様々な選択肢がある中で、患者（消費者）がどのような行動をとっているのか、世帯収入で異なる傾向がみられた。