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怪奇な話 中公文庫
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商品詳細
内容紹介 | |
---|---|
販売会社/発売会社 | 中央公論新社 |
発売年月日 | 1982/08/10 |
JAN | 9784122009479 |
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怪奇な話
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『リラダンによれば生きるといふやうなことは召使に任せて置けばいいことになる。その召使といふものをこの頃は餘り見掛けなくてその觀念そのものが薄れつつある時にその召使といふのがどこかにゐてもそれがさうなのかどうか直ぐには決め難いに違ひない』―『山運び』 読点のほとんど無い文章。だが...
『リラダンによれば生きるといふやうなことは召使に任せて置けばいいことになる。その召使といふものをこの頃は餘り見掛けなくてその觀念そのものが薄れつつある時にその召使といふのがどこかにゐてもそれがさうなのかどうか直ぐには決め難いに違ひない』―『山運び』 読点のほとんど無い文章。だが一度その調子に馴れてしまえば息継ぎの箇所を見定めるのはそれ程難しくはない。呼吸の調子が整ってくると吉田健一の思考の抑揚とでも言うべきものがじわりと沁みてくる。 事の是非を行きつ戻りつし、単純な結論を嫌い、全ての可能性を在り得べきことと見極める。否、「べき」とか「極める」というような踏み込んだ言葉は強過ぎる。ただ事柄の輪郭の曖昧さを認識し、是とも非とも断定することなく、まるで自分の人生には何の関係もないことのようにさり気なく会釈の一つでも交わすくらいの距離を保って受け止める。その言い表し難い中空に漂う態度に満ちた文章に魅せられると同時に困惑も覚える。 言葉の意味も、文章の調子も飲み込んだと思いつつも、何を言われたのかがよく判らなくもある。しかし、果たして判じることが可能なことなどというものが世の中にあるのだろうか、と作家に倣って開き直ってみる。人間もまた然り。幽霊を幽霊と断ずるのは人間の世界の理(ことわり)に縛られるからであって、幽霊を実在のものと考えるならばその存在は幽霊の理で理解しなければならない、というようなことをまどろこしく吉田健一は言い募る。 この短篇集は、そんな判じ難い存在と自然に付き合う主人公たちが登場する物語を集めたもの。その主人公たちは誰もが次々と思い浮かぶ連想の流れに沈まぬように汲々としているようでいて、実は諦念のような人生観を抱いている節がある。 『男はそのうどん屋にて熱いうどんを食べ終つてゐた。今は溫つてそれまでが寒かつたから今は落ち着いてゐるのでなくて男は何かに締め付けられた後でなくてもそれまでに幾度も今の狀態に達し、それを繋げたものがその一生のやうだつた』―『流轉』 神田の神保町を歩いていた筈がいつの間にか英国の田舎道を歩いていることに気付く間もなく今度はロンドンの街中に居る。そのことを、そんなものだろう、と泰然と受け流し、木枯らしの吹く町外れで目に留まったうどん屋で暖を取る。手応えのようなものを与えることを一切拒否した吉田健一の文章が、ただ流れてゆく。 ふと、朝吹真理子の「流跡」は、この吉田健一の文章に魅せられて綴られたものなのかと思い浮かぶ。流れ去ってしまう微かな手応えもない思考の欠片を言葉に移し替えようとする朝吹真理子の文体は、吉田健一のそれを彷彿とさせる。その手の中にある本ははたして「怪奇な話」であるのかと思い付いてしまったのだ。 『黒く凝固した液体によって確かに綴られているはずのひしめく文字列にはさみこまれる浮子(ブイ)のようにゆれるのがなにかと思えば句点であるというように、そうした指示記号もえりわけられず不可解にゆれるばかりでいつまでもさだまらない。(中略)確かにその一冊の本のなかで、ひとやひとでないものの所作がちらちらみえかくれする。ひとやひとでないものがあれこれとものをおもう、そうした書かれたもののものおもいも輪郭がゆれるばかりでなにか事件でもおきているのか、風景があるのかもわからない』ー『流跡』 自分自身の思考であるのに解らない。そのことに戸惑いつつも正面から受け止めて解らないの向こう側へ辿り着こうとする。追いかけているのはただそこに残る先達の思考の流れの痕跡。 『氣味悪いといふのは恐怖が取る形の一つで恐怖は理解力の放棄である。從つてこれはどういふ時にも厄介なことで恐い思ひをする爲に頭を働かせるのを止めるといふのはそれだけの壓力が掛る場合といふことになり、それが先づ例外なしに普通に頭を働かせてゐるのが何かの形で虛を衝かれてのことであつてそれで夜の甲板に出てゐて手擦りから向うを見る氣を起す』―『瀬戸内海』 ぐるぐると廻る思考による酩酊状態のような感覚を楽しんでいると、ついと直截的な言葉に行き当たる。混迷する世の中がまるで客船のデッキから眺める漆黒の大海原のように判じ難いものであったとしても、それをこんなものだと浅薄に断じると思わぬ化け物に出くわすことになる。どんなことも在り得べしと思慮する態度を吉田健一の怪奇譚に教わる。 ***** 出版社 : 中央公論新社 (1977/11/1) 発売日 : 1977/11/1 言語 : 日本語 単行本 : 231ページ ISBN-10 : 4120007499 ISBN-13 : 978-4120007491
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タイトルは『怪奇な話』となっているが、いわゆる『ホラー』ではなく、ちょっと不思議な短篇集。 これ、好きだ……他には何も言う必要はなかろうw
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