工藤写真館の昭和 ランダムハウス講談社文庫

工藤美代子【著】

• 販売会社／発売会社: ランダムハウス講談社
• 発売年月日: 2007/12/01
• JAN: 9784270101469

商品レビュー

2021/11/02

今時は冠婚葬祭くらいでしか写真撮影を頼むことはない。私が小学校の半ばくらいまでは年に一度家族で写真館に足を運んだ。懐かしさと共に突然思い出が蘇った。私の父は若い頃からカメラを嗜（たしな）んでいてセミプロ級の腕前だった。ニコンのFシリーズを愛用し、時折新聞社からも撮影を依頼されていた。
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2009/10/10

　東北の田舎で生まれたひとりの男が、東京に出て、写真業を営み立身出世していくストーリー。街の写真屋を仔細に活写している。文章も闊達だ。今のところ右に出る類書はない。冒頭の天皇撮影エピソード、そして中盤の故郷凱旋エピソードは、読むものを引きつける。
　とはいえ本書は、高度経済成長までに、東京で、名声を確立した写真館の館史であって、いわば写真館の数強多弱の「強」の歴史の側に立つ。館史もあくまで「昭和」で完結している。
　そこで、もちろんこの本に望むことではないが、カウンターの本も必要であると感じた。つぶれゆく「平成」の写真館の「多数」は、いずこへ。