フラッタ・リンツ・ライフ Flutter into Life 中公文庫

森博嗣【著】

• 販売会社／発売会社: 中央公論新社
• 発売年月日: 2007/11/21
• JAN: 9784122049369

商品レビュー

2025/05/29

空への渇望を常に抱きつつ、地上のしがらみと折り合いをつけて生きる戦闘機ノリの話。主人公は、自分たち「キルドレ」の秘密を知ってしまったことから大きな流れに巻き込まれ、飛ぶことから引き離されていく。
全体として「永遠だと思っていたものを失うこと」「焦がれていたものを諦めていくこと」という喪失感がテーマになっていて、重くて暗い。エピローグの描写もバッドエンドに近いが、「空をもう一度飛びたい」という願望を持っているところにまだ救いがある。

2025/05/28

『スカイ・クロラ』は簡単に言えばラブストーリーだったと記憶しているのだけど、これもラブストーリーでした。

主人公が『ナ・バ・テア』や『ダウン・ツ・ヘヴン』とは別の人物になり、「キルドレ」の秘密が紐解かれていく。このシリーズで「キルドレ」は普通の人間ではなく歳を取らない子供の姿をした人達であり、戦闘機を駆って普通の人達の代わりに戦争を行なっている。空を飛んだり人を殺すことを真摯に楽しむ姿が子供の純粋さや無邪気さを象徴しているのだと思う。

「普通の人たちは、きっとこんなふうに退屈で安全な生活を毎日しているのだ…たぶん、今の僕は、そうやって自分を説得しているのだろう。これが人間だ、これが人間だ」

大人になると色々なしがらみに絡み取られて日常に飲み込まれ、渇望することを忘れてしまう。ふとそのことに気付いてしまっても、もう元には戻ることはできない不可逆の変化を遂げてしまっている。子供の頃に戻れないと突きつけられるのはとても寂しい。

2023/09/16

クリタの視点で描かれたスカイ・クロラシリーズ。歳を取らないキルドレしかわからない心情。空に、戦闘機に乗ることでしか味わえない生きる実感。いつのまにか大人になるにつれて忘れていくこと。読後に色々と考えるシリーズ。