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津軽 太宰治文学館5
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津軽 太宰治文学館5

太宰治【著】

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津軽 太宰治文学館5

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商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 日本図書センター
発売年月日 2002/03/25
JAN 9784820594444

津軽

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2016/07/24

随筆のようなスタンスの思い出の再確認と紀行文を思わせる歴史的調査が渾然一体となった作品 太宰治の自伝的作品→閉じられた作品の構造を持たず、小説的なものとしての面白さはほとんどない→小説らしくないそのぐちゃぐちゃな構造の中で、作者自身が顔を出す→歪んだような作者像が極めて魅力的 ...

随筆のようなスタンスの思い出の再確認と紀行文を思わせる歴史的調査が渾然一体となった作品 太宰治の自伝的作品→閉じられた作品の構造を持たず、小説的なものとしての面白さはほとんどない→小説らしくないそのぐちゃぐちゃな構造の中で、作者自身が顔を出す→歪んだような作者像が極めて魅力的  或るとしの春、私は、生まれてはじめて本州北端、津軽半島を凡そ三週間ほどかかって一周したのであるが、それは、私の三十幾年の生涯に於いて、かなり重要な事件の一つであった。私は津軽に生れ、そうして二十年間、津軽に於いて育ちながら、金木、五所川原、青森、弘前、浅虫、大鰐、それだけの町を見ただけで、その他の町村に就いては少しも知ることが無かったのである。 浅虫温泉は最も有名 大鰐→津軽の南端に近く、秋田との県境に近い  だいぶ弘前の悪口を言ったが、これは弘前に対する憎悪ではなく、作者自身の反省である。 編集者に津軽のことを書かないかと依頼された私 17時30分上野発の急行列車に乗って青森へ 青森に着いた私は、かつて自分の家で働いていたT君の所へ寄り、それから中学時代の友達N君を訪ねに蟹田へ 津軽半島の東海岸 外ヶ浜と呼ばれ船舶の往来で繁盛 N君の案内で、外ヶ浜街道をバスで移動し、三厩で一泊して竜飛岬まで行く。 梵珠山脈 ヒバの産地 リンゴは明治初期にアメリカから種  私は決して誇張法を用いて描写しているのではない。この疾風怒涛の如き接待は、津軽人の愛情の表現なのだ。 旅の途中で、リヤカーでおばさんが魚を売っているのを見て、つい鯛を買ってしまう。その後訪れるのがお寺であり、始末に困る。それでも新聞紙に包んで、なんとか三厩の宿まで持って行く。 「これは鯛ですけどね、これをこのまま塩焼きにして持って来て下さい」 女中さんはなんだかぼんやりした様子で、「そのまま塩焼きにするんですよ。三人だからと言って、三つに切らなくてもいいのですよ。ことさらに、三等分の必要はないんですよ。わかりましたか」と重ねて言う。 すると出て来たのは、頭も尾も骨もない五切れの塩焼きが出てきて非常にがっかりする。 「つまらねえ事をしてくれた」お皿に愚かしく積まれてある五切れのやきざかな(それはもう鯛では無い、単なる、やきざかなだ)を眺めて、私は、泣きたく思った。せめて、刺身にでもしてもらったのなら、まだ、あきらめもつくと思った。頭や骨はどうしたろう。大きい見事な頭だったのに、捨てちゃったのかしら。さかなの豊富な地方の宿は、かえって、さかなに鈍感になって、料理法も何も知りやしない。  翌る朝、私は寝床の中で、童女のいい歌声を聞いた。  私はたまらない気持ちになった。いまだに中央の人たちに蝦夷の土地と思い込まれて軽蔑されている本州の北端で、このような美しい発音の爽やかな歌を聞こうとは思わなかった。 金木町の実家に帰り、長兄や次兄とその家族に会うが、どこか溶け込めない。  金木の生家では、気疲れがする。また、私は後で、こうして書くからいけないのだ。肉親を書いて、そうしてその原稿を売らなければ生きて行けないという悪い宿業を脊負っている男は、神様から、そのふるさとを取りあげられる。所詮、私は、東京のあばらやで仮寝して、生家のなつかしい夢を見て慕い、あちこちうろつき、そうして死ぬのかも知れない。  余韻も何も無い。ただの、チャボリだ。謂わば世の中のほんの片隅の、実にまずしい音なのだ。貧弱な音なのだ。芭蕉はそれを聞き、わが身につまされるものがあったのだ。古池や蛙飛び込む水の音。そう思ってこの句を見直すと、わるくない。いい句だ。 岩木山 津軽富士 深浦町 円覚寺の仁王門 育ての親 女中・越野たけ 「金木の津島です」…私とその少女の間に、一切の他人行儀がなくなった。

Posted by ブクログ