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アイロンと朝の詩人
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アイロンと朝の詩人
¥550
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商品レビュー
4.4
10件のお客様レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
正式には何と呼ぶのかは知らないが、勝手に「落ち穂拾い」と名づけたジャンルの刊行物がある。長短、硬軟を取り混ぜ、雑多な媒体に書き散らした短文、解説、随想、エッセイその他の文章を集め、よく似た主題を持つものをひとまとめにし、五つくらいに分けたものを、適当な題を付けて単行本として出版したもののことである。 小説家と呼ぶには、小説以外の文章を書くことが多い物書きには結構この手の本を出している人が多い。通俗小説を書きとばすタイプではなく、一つのスタイルを持ち、自分の書く文章にこだわる作家は、連載のかけもちなど、どだい無理な相談である。作家一本で食っていこうと思うなら、およそ見当違いな雑誌や新聞から舞いこんできた依頼原稿であっても、可能でさえあれば依頼を受けるにちがいない。 そんなわけで、目的も想定される読者も様々な文章が、まとめられることもなく、発表当時の媒体に印刷されたままで、日を送ることになる。重要な文学賞を何度も受賞している堀江氏くらいにもなれば、出版社も放っておかない。まとめて一冊に編めるくらいの原稿がたまれば、単行本として出版したくなるのも道理である。かくして「回送電車」も三巻目となった。 しかし、内容はⅠ、Ⅱに比べると残念ながら、集められた文章にばらつきが感じられるようだ。ある種の軽みがほしくて文章に軽重をつけるということもあろうが、それにしても現代日本語の文章を書く作家の中で、信頼を置ける何人かの一人と目される堀江敏幸にしては、軽すぎるのではないかと思う文章が散見されるのが惜しい。 そんな中で、ようやく小説家としての自覚が高まってきたのか、小説を論じた文章に、この人ならではという視線を感じる。芥川の『文芸的な、あまりに文芸的な』を論じた〈「最も純粋な小説」をめぐって〉も、その一つ。以下に引用する。 些細なことに注目するリアリズムの処理に、強固な詩的精神を加味すること。叙情、ではなくて、叙そのものが情をにじみ出させるような書き方を探ること。「最も純粋な小説」は、殺伐さと紙一重であるから、それを単に叙情的なものと見なすと、かすかに点っていた焚火の火が消えてなくなってしまうのだ。もしかすると、現在の私の仕事のいくつかは、芥川がそればかりを称揚しているわけではないと限定つきで揚げた《「話」らしい話のない小説》の「詩的精神」の実践ではなく、そのあり方に対する遠い憧憬の上に立っているのかもしれない。 堀江敏幸の小説が、《「話」らしい話のない小説》かどうかはひとまず置くとしても、氏の小説が、どのあたりを目指して書き続けられているのかがよく分かる真摯な分析ではないだろうか。 もう一つ書評について論じた文章もいい。「キーパーの指先をかすめたい」から引用する。 どのような分野であれ、自らの非力を棚に上げて他者の才能を云々するのは大胆不敵な振る舞いだし、私的な空間にとどめおくべき言葉を外に投げる以上、棚に上げた部分の脆さをつつかれても文句は言わない覚悟あってのことなのだから、問われるのは、自分の発した言葉が、最低でもありうべき「すれちがいのポイント」にきちんと届いているかどうかだろう。「すれちがい」は、「交錯」、もしくは「出会い」であり、ひとりよがりの感想を、その是非の判定は繰り延べたまま、言葉として相対化する鏡でもあるからだ。 こんな文章を読まされると、著者というキーパーの指先をかすめながら、ゴールネットを揺らす、そんな書評を一度でいいから書いてみたいものだと、及ぶべくもない非才の身も顧みず思ってみたりするのである。
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堀江敏幸「回送電車III アイロンと朝の詩人」読んだ。http://tinyurl.com/3t2hdol 回送電車3冊目は今までで一番書評や書物周辺の話が多くて、扱っている作品や作家はどれも大層魅力的だ。小島信夫はずっと気になりつつも未読なんだけど俄然読みたくなった。(つづく ...
堀江敏幸「回送電車III アイロンと朝の詩人」読んだ。http://tinyurl.com/3t2hdol 回送電車3冊目は今までで一番書評や書物周辺の話が多くて、扱っている作品や作家はどれも大層魅力的だ。小島信夫はずっと気になりつつも未読なんだけど俄然読みたくなった。(つづく IV部が楽しい。人称「私」、視覚と認識、小島信夫、山越えバス。「不明瞭なものを不明瞭なまま見つづける力こそが大切なのだ」という一文を読めただけで、わたしにとってこの本は充分な価値を持つ。大好きなオースターがここにも登場してうれしい。名探偵ポアロはベルギー人だったのか…
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回送電車Ⅰに続いて一気に読めた。残念ながらフランス文学関係や古書関係については分からないところが多いけれど、自分もいつかは・・・という夢を見られる。また、小川洋子さんの本に出てきた武田百合子の名前が堀江さんのエッセーにも出てくる、というだけで、自分は読んだこともないのに、何か仲間...
回送電車Ⅰに続いて一気に読めた。残念ながらフランス文学関係や古書関係については分からないところが多いけれど、自分もいつかは・・・という夢を見られる。また、小川洋子さんの本に出てきた武田百合子の名前が堀江さんのエッセーにも出てくる、というだけで、自分は読んだこともないのに、何か仲間になれた気になる。
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