異議申し立てとしての文学 モーリス・ブランショにおける孤独、友愛、共同性

西山雄二【著】

• 販売会社／発売会社: 御茶の水書房
• 発売年月日: 2007/09/01
• JAN: 9784275005397

商品レビュー

2023/04/28

作品は作者の自己表現ではなく、作家は根本的に作品から隔離されている。

作品は作者の発想や意図といった源泉をもたないし、作者が付与するいかなる目的をも目指さない。作品は作家が与える根拠や有用性とは関係なく、それ自体で孤絶して存在する。作家は、書物という形状ある物体を仕上げながらも、作品の傍らにその支配者としてとどまることはできない

作品が創造されるとき、作品と作家の関係のなかにある隔たりが出現する。作家は作品を完成させるという積極的な営みに参与しているのではなく、むしろこの作品が現出させる「無為」のなかへと無際限に巻き込まれているのである。

ブランショは文学の本源をな作品が、客観的な仕方で現存するとは考えない。（それは書物と呼ばれる）。作品は、一般にある事物や存在者が現実に存在しているような仕方では現実に存在していないのであって、その輪郭は客観的な分析や緻密な読解に際立つわけではない。作品はすでに確固たる姿で現存しているのではなく、書くことと読むことの経験を通じて、つねに探求されるべきものとしてのみ存在する。

文学は言語に結び付いている。言語は安心をもたらすものであると同時に、不安をもたらすものである

文学言語は、事物を表象するのではなく、言葉から成立する独立した世界を作り上げる。言葉と化した物の不在が、すべてが消え去ったが存在するようになる

文学作品は伝達手段にすぎない言葉の状態を退けつつ、何も表現しない沈黙に等しい言葉の状態を目指す。

言語の主体たろうとする人間からも、事物からも分離することで、文学言語は自律した沈黙として存在する

死ぬという出来事においては、わたしはこの経験の主体としてふるまうことができず、非人称的な存在として、とどまるべき確固たる足場もないまま、この出来事に晒されるしかない。死が接近しつつあるとき、私はこの世界の直中でこの世界の外へと彷徨を始めるのである

文学は、この世界の中で接近することのできない空間をつくりだす営みであった

存在の無名の流れが侵入して、人であれ、事物であれ、あらゆる主語=主体を沈めてしまう。

文学作品は、事物のありのままの現前でもなく、言葉による対象の概念化でもなく、対象の不在の現前として存在する。文学空間は、存在でも、非存在でもなく、不在の現前という捻じれた位相

中性的なもののざわめきに晒され、これを聞き取り、語るがままにさせること

すべてが消え去ったが現れる

文学を通じて現れるのは、すべてが消え去った状態そのもの。文学言語は事物の表象をなすのではなく、事物の現存から独立した世界、言葉と化した物の不在の世界を存在させる

★書くことの経験のなかで、作家の私は彼へと移行するのだが、この彼は第二の自我のような実体的な主体ではない。作家は自分のうちにある深淵なる自我にふれるのではなく、非人称的な誰でもない存在と化すのである
⇒これ、よくわかるかも。書いていることで、違うものに移行しているのだが、その違う物ものは、誰でもなくて、それが生まれるのは、それを受け取った人がいた後にようやくわかる、という順序かな

ひとりでいるからではなく、自分自身との関係を欠いているがゆえの、中心を欠いた孤独

★★読者の使命とは、作品から書き手を追放しつつ、作品が作品となるようにすることである

書き手は言葉紡ぎ出せば出すほど、世界からますます離反し、そうした書き手の不在化が作品に浸透する

交流が究極なる孤独の意識となるほど、さらには孤独が交流をなす。交流の秘密、交流を可能にする条件は、交流と沈黙が究極的には等価であるということ、交流の可能性と不可能性が等価であるといこと