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逃げてゆく愛 新潮文庫
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商品詳細
内容紹介 | |
---|---|
販売会社/発売会社 | 新潮社/新潮社 |
発売年月日 | 2007/02/01 |
JAN | 9784102007129 |
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商品レビュー
3.6
16件のお客様レビュー
男女の愛の物語もある。 家族ぐるみの友情の物語も。 でも、やっぱり戦後のドイツの抱える傷跡が、その痛みが、どうしても強く前に出てくる。 特に「割礼」 ひとりの人間としてであって恋に落ちた二人が、互いの家族と会い、故郷を訪れ、社会的な付き合いを深めるとともに生まれる、互いのバック...
男女の愛の物語もある。 家族ぐるみの友情の物語も。 でも、やっぱり戦後のドイツの抱える傷跡が、その痛みが、どうしても強く前に出てくる。 特に「割礼」 ひとりの人間としてであって恋に落ちた二人が、互いの家族と会い、故郷を訪れ、社会的な付き合いを深めるとともに生まれる、互いのバックボーンへの不信感。 ドイツ人がユダヤ人にしたことは許されることではないが、それは、今僕が責められなければならないことなのだろうか。 彼女の悪気のない一言が、彼を息苦しくさせていく。 彼女を失わないために彼がした決断と、その結末に唖然。 亡くなった妻の、自分が知らない一面を探る「もう一人の男」 自分勝手で、3人の女性の間でうまいことやっていると思っていた男が、すべてを捨てようとした時に忽然と浮かび上がる女のサイドの物語が怖ろしい「甘豌豆」 確かに二人の間の愛情が消えたことを知りながら生活を続け、再び愛が生まれることがあるのだろうか。やり直すとしたら、どこからなのだろう。「ガソリンスタンドの女」 ひとつの人生を、違う角度から見た時の落差が冷徹で、いいわけが許されない。 愛情の、愛が無くなったらそこで関係が終わってしまうのが欧米の夫婦観だとしたら、愛が無くなっても情で繋がることができてしまうのが日本人なのかと思ったり。 そう思っているのが私の方だけだとしたら、結構困ったことになるなと思ったり。
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短編集。「朗読者」以来、私にとっては二冊目のシュリンク。 海外の文学を読む時に残念に思うのは、文化土壌や歴史背景を著者と共有できないことだ。特に、過去の歴史が現在に生きる人々の感情にも強く尾を引いているような作品の場合、私は著者の書いた文字以上には理解していないように思う。 シ...
短編集。「朗読者」以来、私にとっては二冊目のシュリンク。 海外の文学を読む時に残念に思うのは、文化土壌や歴史背景を著者と共有できないことだ。特に、過去の歴史が現在に生きる人々の感情にも強く尾を引いているような作品の場合、私は著者の書いた文字以上には理解していないように思う。 シュリンクの作品は、読みながら主人公が「ドイツ人」であるということを強く意識させられるものが多い。以前読んだ「朗読者」は勿論のこと、この短編集に収められている「トカゲと少女」「割礼」「脱線」もそうだ。多分、これらの作品は、ドイツ人ではない私と、ドイツの人々とではそもそも感じるものが全く違うのだと思う。 ただそれでも、彼の作品全体に漂う、何ともいえないもの悲しい雰囲気にとても惹かれる。非常に理性的で感情を露わにしていない落ちついた筆致なのに、だからこそ言いようのない切なさを感じるというか。 しかし今回、気に入ったのは上記作品ではなく、「もう一人の男」「甘豌豆」。 「甘豌豆」は最後思わず笑ってしまった。男性の目から見たらまた違う感想かもしれないな。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
印象的だったのは、「もう一人の男」「少女とトカゲ」「割礼」。 「もう一人の男」は、妻の死後に浮気相手を見つけてしまった夫が、その浮気相手の男に会いに行く話。浮気相手はとんだ嘘つきでみずぼらしい男だったが、最後にはその男の言うことの中に真実を感じられる。個人的に好きだったのは、男が亀好きだったこと。 「(前略)亀はお好きですか?」 「今まで一度も・・・」 「亀と関わったことはないんですか?家で亀を飼っている人でさえ、亀のことがわかっていないんですよ。そして、亀のことがわかってなければ、どうやって亀を愛せるでしょう?おいでください!」 「少女とトカゲ」は、一番文学的に素敵だと思った作品。小さいころから父の部屋に置かれていた小さな一枚の絵が、家庭の不和と重なり、やがて主人公が青年になって再び絵とともに暮らすようになっても、心を乱し続ける。青年はその絵の真相をつきとめるため、あれこれ探しているうちにシュールレアリスム画家のルネ・ダールマンが描いた「トカゲと少女」によく似ていることがわかった。その後しばらく生活していたが、ある時ついにその絵を燃やしてしまう。彼が燃やした「少女とトカゲ」の絵の向こうに出てきたのは、紛れもなくかつて調べた「トカゲと少女」で、やがて一緒に灰になる、という話。 「割礼」は、アメリカに住むユダヤ人の女性とドイツ人の男性との恋愛。宗教や歴史の違いを乗り越えようと話し合いをしたり、いさかいが起こったり、お互いの存在に安心したりしながら、最後は一緒にいられなくなって彼が立ち去ってしまうという話。 民族が個人の単位になっても、被害者と加害者の関係がぬぐえない、教育と文化の背景は交われないのだろうか。 シュリンクの作品は『朗読者』に続いて2作目だったが、今回も一つ一つの話がドイツの近現代を色濃く投影していて、深い教養や戦争の罪、民族性や父子の関係がやはり私を魅了した。 日本人という民族は、ドイツな感じがやっぱりとても好きなのかも。
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