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尖塔 ザ・スパイア
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尖塔 ザ・スパイア

ウィリアムゴールディング【著】, 宮原一成, 吉田徹夫【訳】

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尖塔 ザ・スパイア

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商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 開文社出版/開文社出版
発売年月日 2006/05/15
JAN 9784875719861

尖塔

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2013/03/08
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イギリス南部の町ソールズベリーには、壮麗な尖塔を戴いたイギリスゴシック建築を代表する大聖堂がある。この小説は、ソールズベリー大聖堂をモデルに、尖塔建設に取り憑かれたひとりの司祭の数奇な人生を描いたものである。 キリスト教会はイエスの磔刑像をもとにして建てられている。東にある聖母礼拝堂が頭部、西の身廊が両足、胴部にあたる聖歌隊席に南北の袖廊が交差する形になっている。教会の主席司祭であり参事会長を務めるジョスリンは、ある日、祈りの最中、その交差部の上に当時は存在していない尖塔が聳え立つのを幻視した。それ以来、神は、尖塔建設のために自分をお使わしになったのだ。自分は選ばれた者なのだという使命感を抱くようになる。 しかし、交差部を支える四本の柱は、現在の屋根を支える基礎しか持っていない。予め計画されていない尖塔を支えることはできないというのが職人たちを束ねる親方ロジャーの意見である。試みに掘られた竪抗からは果たして脆弱な基盤が見られたが、信仰に裏打ちされたジョスリンの信念は揺るがない。彼の背中には時折天使が訪れるのを知っているからだ。 教会の雑用係パンガルには美しい妻グッディがいた。足の悪いパンガルは職人たちに道化扱いされていたが、ある日の騒ぎを境にふっつりと消息を絶つ。それと踵を接するようにロジャーとグッディが接近しはじめる。自身もグッディを愛するジョスリンは、苦しみながらも尖塔建設のために二人の秘密を利用する。 塔に石が一つ積まれるたびに四本の柱はたわみ、きしみ音をたてる。それは、四人の男女の捩れた関係が立てるきしみ音でもあった。しかし、ジョスリンはどんどん高くなる塔の建築現場に上ることで、地上の厄介ごとから逃避し、塔の高みから地上の人々を見下ろす快感に耽ることを覚えるようになる。やがて、グッディは妊娠し、ロジャーの妻の知るところとなる。罪への恐怖の裡にグッディは産褥で死に、ロジャーは酒浸りになる。完成間近に親方を失った尖塔は、嵐の夜わずかに傾く。塔の崩壊を防ごうと躍起になるジョスリンを待ち受けるのは常軌を逸した参事会長の行動を糾すために教会を訪れた審問官達であった。 ゴシック建築の持つ天を希求する意匠に一人の司祭の野心と傲慢を重ねて見せ、風に揺れる尖塔に人間の不安や弱さを、交差部の地下に穿たれた穴に隠された罪を暗示させる暗喩や寓意に充ちた構成。頻出する典礼用語や聖書の事跡、詩句の引用、教会独特の建築用語。翼を持つ天使や悪魔の跳梁、繁茂する植物に仮託された官能的なイメージの氾濫。交差部の鋪床から伸びる螺旋階段、梁から渡された歩み板、そこから下層楼室、上層楼室に至る梯子、燕の巣のように空中に架けられた資材小屋、梁材や石材を上げ下ろしするための無数の縄と、ピラネージの『牢獄』を思い浮かばせるゴシック・ロマンス風の建築意匠。 一人ひとりの人物の性格、行動を、体格や身につける衣裳、その仕種、身振り、肌の色、髪の色、声音から、いかにも現実に存在する人間のように描き出す技術に支えられた個性的な人物造型。尖塔の窓から見える中世イギリスの町の人々の暮らしぶりや移り変わる季節ごとに変わる雲の色、風の音の描写と、緊密なプロットの上にそれらすべてが絡み合い、一挙にクライマックスに移る展開の妙味。 極上の小説のみが持つ深い味わいがあるとともに、突然姿を消したパンガルの行方は、ジョスリンの背中を訪れる天使とは、というゴシック・ロマンスやその後継者でもある探偵小説風の謎解き興味も満足させてくれるのは、さすがにイギリス小説。ひとりの男の野心の成就とその挫折を、宗教的熱狂の幻視の中に描いたウィリアム・ゴールディングの傑作。本邦初訳である。

Posted by ブクログ

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