京都木津川殺人事件 書下し長篇旅情ミステリー トクマ・ノベルズ

木谷恭介(著者)

• 販売会社／発売会社: 徳間書店/徳間書店
• 発売年月日: 1998/11/30
• JAN: 9784198504335

商品レビュー

2012/06/25

この大阪でも、府民の飲み水の源流である木津川沿いでこれと同じ事が起きようとしている。つまり、木津川の谷という谷を産廃処理場で埋めつくし、この産廃から発生する有害物質と流域に50あるといわれているゴルフ所で撒かれた農薬が集合して木津川を取り返しがつかないほど汚染するかもしれない。
　けっして、マスコミでは報道されない産廃問題の闇社会で行われている実態を鋭く迫ったのが、小谷恭介のミステリ小説『京都木津川殺人事件』である。
　作品の粗筋は、京都東南部相楽郡にある平尾谷の産業廃棄処理場で、シュレッダダストが自然発火し大規模な山火事が起こる。二日後鎮火したダストの中から焼死体が見つかった。遺体は完全に焼けていたが、瑪瑙(めのう)のイヤリングとセラミックのブローチが見つかり、黒こげたスニーカなどの遺品から若い女性であることが推定された。調査を開始してまもなく、付近で自然食友の会を主催する住職が産業廃棄物業者と衝突を繰り返しており、その会員に瑪瑙のイヤリングをした若い女性がいたという目撃情報が入った。京都府警の魚津刑事は聞き込み調査のため寺に乗り込んだが、日蓮宗不受不施派の住職は「産業国滅、官国賊、マスコミ無問、政治天魔」を唱える筋金入りの権力嫌い。訪れた魚津を産廃業者のイヌと呼んで相手にしない。魚津は、仕方なしに友人で警察庁を休職中の宮乃原警部に助けを求めた。
　宮乃原の情報網から、その若い女性は阪神大震災で結成されたボランティアのメンバーあることを聞きつけ神戸に飛ぶ。二人は、ボランテイア仲間から瑪瑙をしていた女性が明日香であることつきとめた。彼女は、阪神大震災の時ボランティアとして参加。だが、彼女は震災の粉塵公害で結膜アレルギーのアトピーを発症。やっかいなことに、このアトピーは、白い物で発症する。つまり、米や麦砂糖が食べられないのだ。彼女は、やむを得ず自然食友の会に入り粟や稗を紹介してもらっていた。そこで、産業廃棄物に反対している住職を知り、アトピーの原因が産業廃棄物などの有害汚染だと知る。産業廃棄物業者が搬入するトラックを阻止するため積極的に参加したが、警察が業者に応援することに絶望する。 そこで、彼女は大阪駅前第５ビルにある産廃業者が経営する茶屋町のアイリスという喫茶店に勤め始めた。アイリスは産廃業者が行政や警察を接待するために作った店で、喫茶店は名目だけで、実際は女性をこの店で選ばして、店がはねたあとでデートをさせるのための店だった。彼女は、ここで、京都府の環境行政を一手に握っている企画環境部次長に狙いをさだめ、この次長から業者との関係を知る情報を得ようとしたのだった。そして、狙い通りにこの次長とデートしたのだが……。
　小谷恭介は、全国の観光地を舞台にした旅情ミステリー作家と名高く、宮乃原警部を主人公にしたシリーズ物は60冊近く刊行されている。
　しかし、今回の作品は「犯人さがし」のオーソドックスな小説が書きたかったという小谷が、社会の暗部を描く社会派的な手法に加えて、今までとはひと味違ったミステリー小説に仕立て上げている。小説の前半で、登場人物をすべてだし、手がかりもちゃんと書いたうえで、「さあ、どうど、犯人をあててください」と読者に挑戦している。