ワシントンハイツの旋風

山本一力(著者)

• 販売会社／発売会社: 講談社/
• 発売年月日: 2003/11/10
• JAN: 9784062115711

商品レビュー

2014/10/12

この小説には、若者の、力が漲っている。
40代の自分にも覚えがある、10代から20代にだけ、与えられていた時間。
毎日が楽しくて仕方ない、何かできるはず、やってやる、という気概に満ちて、力と希望がいくらでも湧いてくるような時代。
自分は確かに何者かである、という、幻想を信じきっていた。怖いものは何もなかった。どこまでも、世界の果てまで、行けると信じていた。
若さがどれほど儚く、短く、大切なものであったか、きっと作者も、失ってから、切実に感じたに違いない。
小説のいいところは、ある時代の、ある時間を、すっぽり切り取って、生き生きと保存しておけるところ。その時の感情を、瞬間冷凍して、ページを開けば取り出せる。
作者は私より20歳近く年長だが、時代は違っても、若さを描く感覚はおなじだなあと、激しく共感した作品。若さを、過去のものの視点で読んだので、若い人が読んだらまた、全く違う感想になるんだろうな。

2013/02/13

作家の胃袋の山本一力部分をそのまま小説にした自伝小説。高知から母親と上京し新聞専売店に住み込み中高時代をすごし、ワシントンハイツというアメリカ人居住区に新聞配達をしたことで英語力をみにつけ、その後旅行代理店で活躍していく。バイタリティーがあり、女性にモテて、仕事もできる男。その時代の最先端を描いている事は興味深いが、出てくる人物に魅力がない。ちっとも憧れない。

2008/11/14

「ここがワシントンハイツなの。こんなところ、見たことないでしょう」雅美が自慢げに胸を張った。真っ白に塗られたフェンスの先には、小高い丘が連なっており、どの丘も緑の芝生でおおわれていた。平屋の家が、その丘のなかに点在している。日曜日の午前中の陽を浴びて、芝生ではこどもたちがキャッチボールを楽しんでいた。走っている車は、大型のアメリカ車。幌を外したオープンカーも何台か見えた。日差しのなかで、こどもたちの金髪が艶やかに輝いている。「なんだよ、ここは」「だから、ワシントンハイツだって」「それがなんやら分からんきに、おんしゃあに訊きゆうがぜよ」要領を得ない妹の答えに、謙吾は焦れた。