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ヴィオラ弾きのダニーロフ 現代のロシア文学10
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 群像社/ |
発売年月日 | 1992/08/30 |
JAN | 9784905821205 |
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ヴィオラ弾きのダニーロフ
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1970年代のモスクワ。劇場オーケストラのヴィオラ奏者ダニーロフがいつものように友人ムラヴリョーフ家に招かれて夕食をとる場面から始まる。料理の臭いを嗅ぎつけてクダーソフがやってくる。云々。 だがダニーロフは悪魔と人間とのハーフで(永井豪『デビルマン』ではありません)、木星に流...
1970年代のモスクワ。劇場オーケストラのヴィオラ奏者ダニーロフがいつものように友人ムラヴリョーフ家に招かれて夕食をとる場面から始まる。料理の臭いを嗅ぎつけてクダーソフがやってくる。云々。 だがダニーロフは悪魔と人間とのハーフで(永井豪『デビルマン』ではありません)、木星に流刑になっている父親の咎に連座したかなんかで、人間界に赤子として生まれ落ちて成長し、音楽の才能を示していまやオーケストラ奏者として暮らしている。しかし腕輪型の装置のレバーを悪魔側に倒すだけで悪魔の能力が蘇り、時空を超越する。 悪魔の組織は地球だけでなく、あちこちの惑星や素粒子などにエージェントを派遣している。悪魔の貴族中学校時代の同級生カルマドンはエリートで、牡牛座の何とかいう星に赴任して、モリブデンの棒のような生物が皆で同じ夢を見ている社会で仕事をしていたが、この間、自身はまったく眠ることができず、休暇をとって地球に来て、青い雄牛になって眠り続ける。青牛によって地球に生ずる騒動。 ダニーロフに「時間Ч」(なにやら懲罰か審問らしい)を告げる悪魔界の使者。人のいいダニーロフをこき使う別れた元妻。科学的な手法で依頼者の未来を予測し助言するという未来世話人。15世紀の名工アルバーニ(そんな紳士服のような制作者は実際にはいないけど)作のヴィオラの盗難。ひと目で心を奪われるナターシャという女性の出現。ヴィオラ独奏つきの7楽章の長大な交響曲の総譜をダニーロフに見せに来る作曲家ペレスレーギン、曲の価値を認め、初演に向けて格闘するダニーロフ。自殺したヴァイオリニスト、コーレネフ、過去の音楽を否定し静寂主義の作曲を標榜するヴァイオリニスト、ゼームスキー。ナターシャを巡り、カルマドンと射程60キロのミサイルによりなされる決闘。 などといった出来事が起こるのだ、この小説は。 ペレストロイカの少し前、1982年に出版された本書は、ブルガーコフの『巨匠とマルガリータ』の再来と話題になったという。悪魔、2つの世界の往復、といったあたりが類似点か。 私がこの作品の存在を知ったのは、本書の訳者による、作曲家シュニトケだったか、ヴィオラ奏者バシュメットへのインタヴューだったと思う。作者は否定しているが、ダニーロフのモデルがバシュメット(本訳書の表紙画などあからさまにバシュメットのようだ)、ペレスレーギンがシュニトケといわれるらしい。バシュメットはともかく、ペレスレーギンの音楽はシュニトケの音楽を思い出しながら読むのは的を射ている感じがする。 あっちの世界とこっちの世界と股にかけた奇想天外荒唐無稽な話と、ソヴィエト時代の音楽家の話がごった煮になって繰り広げられていく。通常、読者は現代小説なら現代小説、ファンタジーならファンタジーというジャンルに合わせてエピソードのリアリティを受け入れていくが、この小説ではそういうコンテクストがあっちこっちとずれてしまう。ひどくアホくさいエピソードが出てきても爆笑するのか、苦笑するのか、当惑していればいいのかよくわからない読者は、まさに様々な出来事に翻弄されるダニーロフの立場におかれる。そこがこの小説の味わいである。 民主化以前の作品であり、あからさまな体制批判があるわけではないが、悪魔組織はいかにもソヴィエト当局の揶揄らしい不条理さを持って、しかも滑稽に描かれ、私は映画『未来世紀ブラジル』を思い出した。『セロ弾きのゴーシュ』的な音楽家の成長物語と読める側面もあって、タイトルを『ヴィオラ弾きの〜』と訳したそうだ。主人公の自覚的には特に成長していないのに周囲の評価が変わってくるというあたりは『ゴーシュ』に近いかもしれない。だからといってBildungsromanともいえないだろう。 ただ、音楽を愛する小説であることは確かで私はとても楽しく読んだ。ダニーロフは音楽には悪魔の能力を使わないことにしているが、演奏がうまくいったときには自分が腕輪のレバーを「あっちの方」に倒していたのではないかと確認する。そりゃそうでしょう。音楽の至高の時は悪魔的瞬間になるのが当然なのだから。
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