日本のハムレットの秘密 天才少年遺言の謎 ノン・ポシェット

斎藤栄【著】

• 販売会社／発売会社: 祥伝社
• 発売年月日: 1991/04/20
• JAN: 9784396322151

商品レビュー

2012/01/22

藤村操の華厳の滝投身自殺。
実は狂言自殺で辞世の句に暗号が隠されていた。ミステリ作家の「私」は藤村操の末裔を名乗るファンの美女に依頼され、逮捕時の負傷で休職中の友人の刑事と、この狂言自殺説の解明に挑む。
そこに謎の奇術師兼素人探偵が絡み物語は意外な進展を見せ始めるのだが…。

アイディア満点、出来は赤点という酷評もあるが（私が内心思ったｗ）、私はそれほど貶す気にならない。
暗号を一言一句いじれない有名な遺書に見出し、ジョセフィン・テイ「時の娘」ばりの歴史上の謎を寝台探偵に挑戦する心意気やよし。暗号小説としては一級品です。

ただ女性が出て来て云々と仮面を外さないマジシャン探偵（タキシード仮面かよ）が余計な枝葉に思えて来て読後、不完全燃焼感があるのも分かる。これで乱歩賞に応募しても最終候補に残るかは微妙なのは確か。

でも、斎藤さんの県立湘南高校～東大法学部～横浜市役所～ミステリ投稿を続け短編デビュー～三度目の正直で昭和４１年「殺人の棋譜」で乱歩賞～専業作家になり横浜市職員退職という経歴は凄いよ。高校時代は石原慎太郎（！）と文芸同人誌作ったっていうし。

エッセイで編集者が「直木賞狙ったらどうですか」と言うのを一蹴して笑い飛ばしミステリ作家専念宣言していた。

文壇賞レースは乱歩賞の大看板があれば必要ないでしょうしね。因みに前年受賞が西村京太郎、斎藤栄と来て翌年が海渡英祐～受賞作なし～森村誠一（以下略）と豪華絢爛。受賞後活躍する打率高い。

笹沢左保や佐野洋クラスの大御所ミステリ作家が直木賞候補になっても落選する時代だったとはいえ潔い。

今マニア人気が低いのはあれかね、タロット日美子シリーズとかがこのミス系読者＆オタクに毛嫌いされてるせいなのかね。

私のオススメはやはり初期作品が多く「殺人の棋譜」「火の魔方陣」「奥の細道殺人事件」「人間鬼劇（短編集）」辺りです。流石に全作品を読んだ訳ではないけれど。

本作はこの辺りに比べ、確かに現実世界での話の進行と歴史上の人物の隠されていた（かもしれない）謎解きのバランスが苦しい。でも作家の私が藤村操狂言自殺説に本気で挑む動機がないと話が進まないんだよなあ。謎の美女を「藤村操の子孫？　ありえないでしょ（笑）」と追い返していたら話がその序章で終わってしまうｗ。

このバージョンでは故山村正夫さんの解説が貴重で、藤村操が一高生で旧制一高といえば弊衣破帽のバンカラスタイル（死語！　「我が良き友よ」がヒットした頃でさえアナクロだったろうしねえ。本宮ひろし「俺の空」はその後にヒットしたけど）で当時の少年少女の憧れだったことや、先輩作家の高木彬光が「我が一高時代の犯罪」を書いたことに触れ、藤村操の「巌頭之感」のインパクトを語っており読み応えがある。

（Bed Detective：主人公が負傷等で動けず資料やデータだけで推理する。ネロ・ウルフの安楽椅子探偵：Armchair Detectiveとは 微妙に違うらしい。自分で助手に命じて資料集めしないとこかな）