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富士北麓観光開発史研究
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富士北麓観光開発史研究

内藤嘉昭(著者)

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富士北麓観光開発史研究

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商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 学文社/
発売年月日 2002/03/12
JAN 9784762011009

富士北麓観光開発史研究

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2010/09/18

前にもクリストファー・ロー『アーバン・ツーリズム』の訳者として,本書の著者である内藤氏については書いたが,2008年に拓殖大学国際学部に移り,拓殖大学のホームページに彼のインタビューが掲載されていて,その経歴がかなり明らかになっている。経歴に「外務省勤務」と書いてあることが,彼の...

前にもクリストファー・ロー『アーバン・ツーリズム』の訳者として,本書の著者である内藤氏については書いたが,2008年に拓殖大学国際学部に移り,拓殖大学のホームページに彼のインタビューが掲載されていて,その経歴がかなり明らかになっている。経歴に「外務省勤務」と書いてあることが,彼の観光研究における政策提言的な側面に大きく影響していると思い込んでいたが,なんと外務省勤務は,彼の長い社会人生活における3年間にすぎないらしい。ともかく,さまざまなところを転々としているのはとても面白い。 本書は彼が桜美林大学に提出した博士論文ということだが,各章はそれ以前に発表されている。外務省勤務の経験と関係あるのか分からないが,政府系の財団法人から観光されている雑誌『運輸と経済』や,彼が専任講師として勤めていた奈良県立商科大学の紀要など。1999年に博士論文を提出した時点で,すでに『観光とアジア』と『観光と現代』という2冊の著書および,5冊の訳書を刊行しているので,そのバイタリティはすごい。しかし,以前にも書いたように,地理学関係雑誌には自らが翻訳することになる英文書の書評が掲載されるだけで,彼自身の研究については謎だった。そんな謎を解明するために本書を読んだわけである。 本書の目的と論旨は明確。富士山麓の山梨県側の地域を「富士北麓」とし,この地の観光開発の歴史を江戸時代から現代まで辿ること。なぜこの地域で論じるのかというのは,彼が山梨県出身ということも大きいようだが,明確な意義も述べられている。まずは目次を示しておこう。 第1章 近世の富士信仰をめぐる観光的考察(1603~1868) 第2章 近代的観光地の形成と発展(1868~1925) 第3章 昭和初期における社会変動と観光開発(1926~1945) 第4章 戦後の地域変容と観光開発(1945~1999) 本書のタイトルや目次からも分かるように,本書は非常にオーソドックスで硬い本である。といいながらも,あとがきで書かれているように,その書き方は,当地の観光開発があたかも一個人の人生に目的を持った成長のように,目的論的に,ドラマチックに描かれている,という意味では柔らかい本である。 江戸時代の主要な産業といえば農業である。それを前提とした時に,当地の自然環境は農業には恵まれないもので,とても貧しい地域だったというところから始まる。一般的な理解では,近代から現代に至る地域の発展は,農業を含む第一次産業から第二次産業を経,第三次産業へと移行するわけだし,また第三次産業の主要な部門としての「観光」は近代以降に顕著になってきたものだ。しかし,当地では富士信仰,あるいは富士講という存在が,前近代的な観光として,重要な産業として徐々に進展し,第二次産業化,つまり工業化という地域発展の段階を経ずに,第三次産業が展開していくという。しかし,それはあくまでも多くの貧しい農民たちの生活を豊かにするような地域発展ではなく,一部の富裕層にとってのみのものであった。それは近代期に入っての避暑地,リゾート地としての開発においてもしかりである。外国人向けのリゾート開発というのは日本各地で展開したものであるが,本書で面白かったのは今でも残っている大学のスポーツ合宿施設の開発である。本書は当時の大学生がいかに少数派のエリート集団であるかという資料を示しながら,戦後になるまで,当地の観光開発は一般的な民衆を相手にしたものではなかったことを指摘している。 そして,戦後に河口湖付近にオープンする富士急ハイランドに象徴されるような大衆レジャー化が進むわけであるが,彼が地理学者としてこだわっているのが,富士北麓と地域を設定していても,その中身はそのなかでも異なっており,富裕階層向けのリゾート中心の山中湖と大衆的なレジャー中心の河口湖という対比をしているところである。 確かにその論理は,一見直接関係なさそうなさまざまな資料を提示することで説得的になっているし,本書のストーリーは非常に面白い。歴史学的な手法をとりながらも,常に「観光」を中心におき,しかしその根底には農業貧困地域における「観光」を利用した内的発展というテーマはとても独自の視点と説得力があるように思う。ただ,ちょっと気になるのは,彼が「観光地理学」を標榜し,地理学の堅実な業績もきちんとフォローしながらも,いわゆる現在進行形の日本の地理学アカデミアにあまりコミットしようと思われないところだろうか。まあ,逆に地理学の方でも彼の著書を誰もきちんと紹介・評価していないように思われるのだが。

Posted by ブクログ