水晶散歩 井辻朱美歌集

井辻朱美(著者)

• 販売会社／発売会社: 沖積舎
• 発売年月日: 2001/02/01
• JAN: 9784806010913

商品レビュー

2024/08/23

井辻朱美さんの歌集ですね。
2001年発行です。
　あとがきに「『水晶散歩』は第五歌集になります。この五年ほどは、毎年ヨーロッパへ出かけていました。アーサー王やエル・シドや北欧神話の世界が、いまでもちゃんとあるのだということを知って驚きました。」と綴られています。ファンタジー作家でもある井辻朱美さんの、そうした喜びともとれる、歌の数々と様々な「空間（スペース）とは、思いを置く場所であり、心の構図でもあります。」と語られている「空間」を詠まれた、ロマンあふれる歌集です。

　風が吹く　地球の裏側に立つ馬の
　　　横腹の毛をしっかに吹き分け

　花ざかりの森のふしぎにもまぶしくは
　　　あらぬ永遠の午睡にいる家

　しんじつにおもたきまのは宙に浮かぶ
　　　惑星・虹・陽を浴びた塵

　花首の長き根まで乾かして
　　　いんぐらんどの月光海風

　われもまた異土の木の卓打ちながら
　　　来む世の綺羅のものがたりせむ

　ゆたゆたと泡盛りあがりゐるグリーンティ
　　　宇宙樹より来るみどりの時間

　あおぞらに映るわれらの思い出は
　　　しずかにひれふる雲のシャチたち

　やさしさとは遠くからのうわのそら
　　　その美しい巴里の空にも

　レモンとシトロン無法にかがやく夏があり
　　　この宇宙にはあまたの太陽（ソル）

　大気の龍にまたがって駆ける
　　　美しいこの惑星のロデオのやうに

　惑星のすべての青い条痕を
　　　いのちの澪と歌へ　ＷｈａlｅS

　ヒマワリが立ち枯れてゐる野を前に
　　　底まで明るいネコの昏睡

　はるかなる窓をゆびさす鐘の音（ね）が
　　　無限にとほく夢幻にちかく

　こんこんと湧き出すやうに花が咲き
　　　咲くとは風にうかぶことなり

　知り得ないことの白い痛みに似つかはしく
　　　グラナダの風がふきながす雲

　ファンタジーが好きな私には、井辻朱美さんの歌集を読むことは、幸せを噛みしめるように感じます。
　『空間は見えるものであり、そして生きるものであり、それが変われば世界そのものが変わってしまうのではないか。　どうするば世界が祝祭空間になるのか。それがたぶん私のテーマです。』
　井辻朱美さんの世界、空間を味わえる歌集ですね。