釣りバカたち(文庫版)(双葉社)(1) 名作シリ-ズ 双葉文庫名作シリーズ

矢口高雄(著者)

• 販売会社／発売会社: 双葉社
• 発売年月日: 1996/04/01
• JAN: 9784575720457

商品レビュー

2020/12/16

　先月20日に亡くなつた漫画家、矢口高雄氏を偲び、ここに『釣りバカたち』を登場させるものであります。代表作の『釣りキチ三平』は我家の本棚で発見できませんでしたので。昔買つた記憶はあるのですがねえ。まあいいや。
　『釣りバカたち』は、「漫画アクション」にて連載された、一話完結のオムニバス風釣り漫画であります。アクションコミックスでは全５巻、わたくしの所持するACデラックス版では全３巻となつてゐます。

　第一話「釣りバカ誕生」で、相互銀行に勤める田中くんが釣りバカになるまでの経緯を描き、第二話「中山漁業」は田中くんの釣り仲間で中山漁業と綽名される男の悲劇の物語。
　第三話「水の妖精」では、水の妖精と称されるイワナに取りつかれた釣りキチ・北川くんの甘美で稀有な体験を綴ります。しかしチヨちやんの理屈は男のわたくしには分からない（結婚間近なのに北川くんに処女を捧げる）。結婚相手の男性が憐れぢやないか。
　第四話「源さんの谷間」では、渓流釣りの名人・源さんの物語。赤渕のヌシのイワナを吊り上げる事を生きがいにしてゐた源さんが、いざ釣つてみると、まるで自分を見てゐるやうで、魚拓を取つたら逃がしてしまつたといふ話。
　第五話「釣り十戒」では三たび田中くんが登場、釣り堀でヤクザの親分の顎に自分の釣り針を引つかけてしまひ絶体絶命。腹をくくつて「釣り十戒」を披露すると、逆に感心され、美人の娘ともども釣りのコーチを依頼される事になりました。

　......などと全部紹介するときりがないのでこのくらゐにしますが、要するに釣りにイカれた人たちが織りなす人間模様を描いてゐる訳です。時には何でもないやうなさりげない出来事を、時にはドラマチックな男女の物語とヴァリエイションに富んだ内容であります。ダイナマイトで一気に魚を獲らうとする愚かな男の為に犠牲となつた実直な若者の話なんかは好みですな。あのツチノコ騒動のきつかけとなつた「バチヘビ奇談」も収録されてゐますよ。

　わたくしは殆ど釣りをしない人間ですが、そんな自分にも「ああ、釣りつて良いもんだ喃」と思はせる漫画であります。釣りそのものよりも、それを取り巻く人物に対する共感や、魚たちへの温かい視線などが心地良いのです。
　矢口氏は天に召されましたが、残された作品群はいつまでも残ると感じました。皆も読みませう。