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目には見えない何か 中後期短篇集 1952-1982
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目には見えない何か 中後期短篇集 1952-1982

パトリシア・ハイスミス(著者), 宮脇孝雄(訳者)

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目には見えない何か 中後期短篇集 1952-1982

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商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 河出書房新社
発売年月日 2005/03/16
JAN 9784309204321

目には見えない何か

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商品レビュー

3.8

7件のお客様レビュー

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2022/09/20

お隣さんで起きていてもおかしくないと思わせるリアリティ。徹底的に作家が登場人物と自分を突き放しているからこそだろう。優れた作品は現代を予告しているかのような時代を超越するものがる。こういう作品と出会うのは人生の喜びである。

Posted by ブクログ

2020/02/19

 最初の「手持ちの鳥」から面白かった。ある種の詐欺師なのだけどそこにはわずかな善意もあり、詐欺師を断罪するかと思えば、その詐欺が結果的に人びとを幸せにしている。いわば嘘が事実として受け入れられる。安易な解釈や分類を許さないというところで、私の大好きな類いの作家だと確信した。  ...

 最初の「手持ちの鳥」から面白かった。ある種の詐欺師なのだけどそこにはわずかな善意もあり、詐欺師を断罪するかと思えば、その詐欺が結果的に人びとを幸せにしている。いわば嘘が事実として受け入れられる。安易な解釈や分類を許さないというところで、私の大好きな類いの作家だと確信した。  「取引成立」はその面白さが前面に出ていると思う。殺人の罪から逃れたかと思えば、小肥りの女との「取引」が待っている。細部の話も、人をぶっ殺しているのだけど、どこかコミカルで笑ってしまった。  「生まれながらの失敗者」と「人間の最良の友」は、本書の中でも珍しく爽やかなエンディングを迎えている。前者は、唯一の成功のチャンスを失うことによってこれまでの失敗がもたらした「成功」に気がつくという話(読み間違いでないと思いたい)。  私が面白かったのは後者で、主人公は優秀すぎる犬から自分の愚かさを責められているような気がして自殺を図るのだけど、そのどん底から逆転するという話。主人公を振り、さらにこの犬を与えた女性は、もちろん犬とともに道徳の化身なのだと私は思った。そしてこの主人公が自殺するのが、他の作品から見て予想されるパターンだった。けれど、実際にはその女性への幻想は打ち砕かれ、主人公と女性はまったく逆転するかたちで物語は終わる。犬だけが変わらないというのが印象的だった。 死へ突き動かされる人々は多くの作品に登場する。「人間の最良の友」もそうだし、知性の裏に狂気を隠し持った人々だとも言えるかもしれない。それは自殺や殺人というかたちで現れる。この点では、「危ない趣味」と「ゲームの行方」がお気に入り。前者の主人公は女性を落として記念品を盗むという悪癖があるのだけど、そのために徹底的に対象を調べ、相手に気に入られる人物を演じる努力を怠らないというのが、まったくおかしい。そしてその知性と狂気が暴走し、殺人を犯す。そのことをきっかけにしてそれまで裏表つつがなく送っていた日々が崩壊し、自尊心を失ってゆく。ついに罪を自白するが、自尊心を失い変わり果てた彼を、誰も彼とは認めない。彼はついに自殺する。後者の女性も、真意を読者に読ませない感じが、ハラハラして面白いです。  男と女というのも一つのテーマですね。この点では、「狂った歯車」や「帰国者たち」もありますが、やはり自分は「フィルに似た娘」ですね。フィルに似た娘をきっかけに過去を精算してハッピーエンドかと思いきや、それが死への引き金になってしまう、と言ったら言いすぎかもしれないけれど。  二者択一の状況から、どう転ぶか。どちらもあり得るけれど……。  「ミセス・ブリンの困ったところ、世界の困ったところ」が紹介されているのをきっかけに本書を読んだのだけど、やはり同作は素晴らしかった。死にゆく人の目線。世界が狭まることで広まってゆく感覚。その美しさが、ミセス・ブリンという俗物的な人間の存在で引き立つ。親切なエルシーも、彼女は救えない。何もかもが遅すぎた。  読み終えたばかりでまったく考えがまとまっていませんが、面白いです。

Posted by ブクログ

2013/03/09

よほどの人嫌いか厭世家なのか、これほど人間や人生というものに対する憎悪と呪詛をあらわにした作品ばかり並べた本を寡聞にして知らない。作家がいくらかの共感を持って描く人物は、自殺を決行しようとしている女性、けちな詐欺師、仕事で失敗を繰り返した挙げ句、やっと訪れた幸運を川の中に落として...

よほどの人嫌いか厭世家なのか、これほど人間や人生というものに対する憎悪と呪詛をあらわにした作品ばかり並べた本を寡聞にして知らない。作家がいくらかの共感を持って描く人物は、自殺を決行しようとしている女性、けちな詐欺師、仕事で失敗を繰り返した挙げ句、やっと訪れた幸運を川の中に落としてしまうような甲斐性なしくらいのものである。その逆に、自分の信念や信条に従って行動した挙げ句がその結果に幻滅して相手を殺したり自殺したりという救いがたい結末を見せる話なら掃いて捨てるほどある。 ヒッチコックの『見知らぬ乗客』やルネ・クレマンの『太陽がいっぱい』の原作者として知られるパトリシア・ハイスミスの1952年から1982年にわたる中後期短編集である。短編小説というのは、日本のように文芸雑誌が毎月発行され、それなりの読者がいて初めて商業的に成り立つジャンルである。英米で商業的な成功を収めるには長編を書くに限る。 ハイスミスも長編作家と目されている。しかし、首尾結構の整った世界を創造するなら短篇にしくはない。メリメの短篇に憧れを感じていた作家は、若い頃から晩年に至るまで、傾向も文体も異なる実に多くの短篇を書いた。それらの作品の中には未発表のまま作者自身によって破棄されたものも多い。これらは作家のファイルにかろうじて残されていた原稿の中から中後期の短篇十四編を選び作家の死後編まれたものである。 作風はきわめてアイロニカル。自殺を決意した時から急に男性の注目を集めるようになった女性を描いた表題作「目には見えない何か」をはじめとして、悪行が善意に取られたり、人生の失敗者と思われる男が結果的には幸福者であったり、事態は主人公の意図とはうらはらに進んでいく。振られた女性にもらった犬の尊厳に溢れた態度を、はじめは憎らしく思いながらも、しだいにその犬の飼い主に相応しい威厳を身につけていった男が、恋人に再会し幻滅を覚え、女性でなく犬の方を生涯の伴侶と再確認する「人間の最良の友」など、よほどの女嫌いでなくては書けない皮肉に満ちた作品である。ちなみに作者は女性。 たとえどのように憎むべき犯罪であっても納得できる理由があれば、読者は殺人犯にさえ感情移入できるものだが、ハイスミスの描く人物の殺人動機は奇妙にねじくれている。その作品世界では、人は実に無感動に人を殺し自分を殺す。一般の犯罪者が不道徳と呼ばれるなら、ハイスミスの描く犯罪者は無道徳なのだ。自殺にしても良心の呵責に攻められてするのではない。生きる意味がなくなるから死ぬだけのこと。 「狂った歯車」で、彫刻家の夫が述べる犯罪の動機は、写真家としての優れた才能を磨くことより、子育てを優先するようになった妻の変化にある。妻の魅力を奪ったのは自分との結婚だと考え、隣人である青年に妻を任せて身を引く夫の行為が妻には理解できない。帰りを懇願する妻の電報によって家に戻った夫は、結局のし棒で妻を殴り殺してしまう。 「人生?そんなものは召使いがしてくれる。」という有名な台詞がある。ハイスミスには普通の人間が求める幸福に対する皮肉な思いがある。幸福を求めようとして得られない主人公たちは、高い所に立ち続ける恐ろしさに耐えきれず飛び下りる方を選ぶ高所恐怖症患者のように、自ら破滅を求めて行動しているように見える。世界に愛が溢れているなどという世迷いごとは信じられないという醒めた貴方にうってつけの短編集。読後のひんやりとした感触は一興。

Posted by ブクログ

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