1,800円以上の注文で送料無料

風変りな魚たちへの挽歌
  • 中古
  • 書籍
  • 書籍

風変りな魚たちへの挽歌

稲葉真弓(著者)

追加する に追加する

風変りな魚たちへの挽歌

定価 ¥1,980

990 定価より990円(50%)おトク

獲得ポイント9P

在庫なし

発送時期 1~5日以内に発送

商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 河出書房新社/
発売年月日 2003/04/30
JAN 9784309015415

風変りな魚たちへの挽歌

¥990

商品レビュー

0

1件のお客様レビュー

レビューを投稿

2017/05/06
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

「失くしたものは、みんな魚になるのさ。いつかお前の靴をつかまえてやるよ」 「魚も恋をするのね」すると彼は当然といった表情で、産卵期の雄の体色変化や、雄同士の闘争について話し始めた。「気に入った雌を手に入れることのできない雄は、雌の周りをぐるぐる回るだけなんだ。ああ、と溜め息をついて、それでも諦めきれずに鱗を精いっぱい飾りたてるんだ。気を引くために、何度でも溜め息をつき、奇妙な動きをしてみせる。一種のノイローゼにかかる魚もいるんだぜ。嫉妬の激しさに水の中をキリキリ狂い回る魚もいるよ。悲しい表情が、背ビレや尾にあらわれているけど、自分でもどうしようもないんだな。僕は昔、嫉妬に狂って、ガラスに頭を打ちつけて自殺してしまった魚を見たことがあるんだ。彼は死ぬ前に、他の雄に猛然と挑み、とうとう気に入った雌の卵管を喰いちぎり、それを歯にしっかりとくわえたまま、ガラスに突進したんだ。本当にそんなことだってあるんだぜ」 「どうして、モンはそんなに魚が好きなの?」「どうしてって、好きになるのに理由なんかないだろ。気がついたら好きになっていた」「私はいつも理由を考える。女はいつもそうだわ。バカみたい」 人には一番好きな人の傍や、好きな場所で死ぬ権利がある、と私は思う。 「ここにいるんです」と私は言った。「みんな、ここに来るのさ」と老人は言った。地底の河には、生臭い風が吹いていた。「また、どこかへ行くんですか?」と私はたずねた。「行くのもいる。行かないものもいる。行かないものは永遠にこの場所を動くことはないよ」「みつかればいいと思っている訳じゃないんです。みつかっても、仕方がないんです」と私は言った。 「自然にしていればいいんだ。いつも深呼吸しながら立っていれば、何とかなっていく」 「知ってるだろう?雁が海を渡るとき、木の枝を一緒に運ぶってこと。疲れるとそれを海面に浮かべて休み、また枝をくわえて飛びたつ。今日、ここに僕たちが一緒にいることも、たぶんそれと同じことなんだよ」少し黙ってから、暁雄はは言った。「海を渡ってしまったら、木の枝は役割を終える。・・・・・気を悪くしたらごめんよ」「別に傷つかない。とてもよくわかるから」と私は言った。 「いいなぁ、あんたは」「どうして?」「したいことをしている。そう見える」修は口ごもり、ためらいながら言った。 「どこへでも行けるって、どこにも行けないことと似ているのね。この町の人もそう。どこにだって行けるのに、どこにも行かない。若者は別だけど」「恐いことなんてないっていう人も、いろんなものを恐がっていますよね。なぜ、怖いことなんてない、なんて言うんだろう」とあのひとはおかしそうに笑った。「だから、どこへでも行けるなんて気がつかないほうがいいんです。気づくとどこへも行けなくなる。自由だと思った途端、身動きできなくなることってあるでしょう?だから僕、最初から自分を力づくで抑え込んでいる。締め上げていくんです。そんなふうに硬直している時のほうが、僕にはいろんなものがよく見えるんです」 「ああ、生温かい春の夜や、今夜みたいな夏の夜にね。一番美しいのは月の夜だ。退屈なものだよ、いつもの風景ってやつは。だけど、普段は忘れていても、フッとあいつらが生きてるってことを思い出すことがある。土の感触が、季節の変わり目に違ってくるのに気づくのと同じように、あっ、と思うようなことがある。だからといって、別にどうってこともないけどね。自分の皮膚みたいなものだよ、土地って」 「この土地を嫌ってさっさと逃げていったあんただけど、いつか見せようと思っていたんだ。もちろん、俺がこんなことをしているのは、あんたには関係のないことさ。あんたがどこにいって何をしていようがいっこうに構わない。だけど、あんたの土地がここにあって、毎年、野菜や果物が実っているのを知っているのは、悪い気分じゃないと思うんだ」

Posted by ブクログ

関連ワードから探す

関連商品

同じジャンルのおすすめ商品

最近チェックした商品