エロトマニア妄想症 女性精神科医のストーカー体験

ドリーンオライオン(著者), 長島水際(訳者)

• 販売会社／発売会社: 朝日新聞社
• 発売年月日: 1999/09/05
• JAN: 9784022573681

商品レビュー

2011/11/16

この本を読んだのは随分前だ。エロトマニア妄想症とは、ド・クレランボー症候群のことを指す。
自宅にあるイアン・マキューアン『愛の続き』を見て、この本のことも思い出した。普段は決して読まない類いのマキューアンの小説を、なぜ読むのかわからないままに読んだ記憶がある。たぶん記憶の底にこの『エロトマニア妄想症』が強烈にあったせいなのかもしれない。また、こういう種類のことについて少しだけ悩んでいたせいかもしれない。
図書館で見かけて手にとって、そのまま借りて読み切ってしまった。読後、この世の悪夢をまたひとつ識ってしまったと後悔した。
何を言おうと、どう説得しようと、すべてが『あなたは私を愛している』に繋げられてしまう恐怖。『私は』ではない。『あなたは』愛している、のである。そこが病的たる所以に思える。患者に『私はあなたのことなど愛していない』と伝えれば、『私を気遣ってそんなこと言うのね、あなたはなんて思いやりに溢れた人なの。あなたの私に対するどうしようもないほどの深い愛を感じるわ！』などという具合。太刀打ちのしようもない。これが永遠に続く。
この手のことを考える度、井上陽水さんの歌詞を思い出す。『愛されてばかりいると　星になるよ〜♬』 まるで童謡の歌詞のように、恐ろしい意味が込められていると勝手に思い込んでいる。決してそんなことはないのであろうが、私も病気だろうか。
患者にとってというより、患者のターゲットになった人にとって地獄の窯の蓋があくようなこの疾患に、治療法が見つかる日はくるのだろうか？